バブルの崩壊を待つまでもなく、AI業界には価格競争の波が押し寄せようとしている。企業がとどまるところを知らないトークン支出に急ブレーキをかける中、OpenAIとAnthropicは大幅な値下げを迫られている。値下げは利益率を圧縮し、目前に迫る1兆ドル(約160兆円。1ドル=160円換算)規模のIPO(新規株式公開)の行方を左右し、AIサプライチェーン全体に波及しかねない。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、値下げの対象となるのはトークン(AIとの対話の単語を構成する断片で、両社のビジネスモデルを支える課金単位)だ。
なぜ値下げするのか。ChatGPTやClaudeを契約する企業の間で、価格が高すぎるという声が強まっているからだ。その典型例がウーバーである。フォーチュン誌の報道によれば、同社は2026年のAIコーディング予算をわずか4カ月で使い果たした。Claude CodeやCursorのエンジニア1人当たりのコストは月額500ドル(約8万円)から2000ドル(約32万円)に及ぶため、ウーバーは現在、ツールごとの利用額を月額1500ドル(約24万円)に制限している。
AI支出を抑えるため、ClaudeやChatGPTといった最高価格帯のモデルを必要としない単純なタスクに関しては、企業ははるかに安価なオープンウェイトモデルを利用してている。WSJによれば、企業はこのためにAIエージェントを配備し、単純なタスクにはアリババやDeepSeek(ディープシーク)といった中国企業の安価なモデルを、より複雑なタスクにのみ最も高価なモデルを使い分けているという。
こうした予算上限の導入をきっかけに、企業はAI支出が本当にリターンを生んでいるのかを、より厳しく見極めるようになるかもしれない。そもそも、AIの投資効果に対する疑問は今に始まったことではない。筆者は2024年9月に、AIにキラーアプリ(決定的な用途)が存在しないことについて書いている。
最近の調査でも、AI投資のリターンを裏付ける証拠は乏しい。マサチューセッツ工科大学(MIT)が2025年に発表した「GenAI Divide」調査によれば、企業の生成AI実証実験の95%は、6カ月以内に測定可能な利益を生み出していないという。
投資効果が見えないことは、AI予算を握る意思決定者の判断に影を落としている。ウーバーのアンドリュー・マクドナルド最高執行責任者(COO)はポッドキャスト「The Future of Finance Podcast」で、「ユーザーに提供する有用な機能や性能に直接結びつけることができないのであれば、その投資を正当化するのは難しくなります」と語った。
巨額のAI予算の価値を疑問視する企業が増えれば、その影響は業界全体に波及する。OpenAIとAnthropicは利益率の低下を受け入れ、IPO価格を引き下げざるを得なくなるかもしれない。ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)は、エヌビディアからより安価な競合他社のチップへと調達先を切り替える可能性がある。ハイパースケーラーがAIチャットボット事業者から得る収入も減るかもしれない。そしてCoreWeaveのようなネオクラウド(AI特化型の新興クラウド事業者)は、債務の返済がより困難になる恐れがある。



