長年にわたり市場平均を下回るパフォーマンスを続けてきた同社に、投資家がついに注目し始めた理由は何か。
注意を払っていなければ、見逃していたかもしれない。米国時間2026年3月10日から6月8日にかけて、米半導体大手クアルコム(QCOM)の株価は61.7%という大幅な上昇を記録した。比較すると、この上昇率は同期間のS&P500の上昇率9.5%をはるかに上回り、ブロードコムをはじめとする多くの半導体ライバル企業を大きく引き離す結果となった。
では、その引き金は何だったのか。長らく、同社をめぐる物語は代わり映えのしないものだった。スマートフォンの需要サイクル、中国市場の動向、そしてアップルとの複雑な関係である。ところがこの期間、ウォール街の関心はまったく別のストーリーへと移った。
自動車部門が急成長、過去最高売上を記録
新時代の到来を示す最も大きな兆候は、自動車部門からもたらされた。同社は自動車向け売上高が13億ドル(約2080億円)と過去最高を記録し、前年同期比38%増となったことを発表した。これは決して小さな数字ではなく、待望されてきたクアルコムの自動車市場への進出が勢いを増していることを明確に示すものだった。同社のストーリーは、将来の自動車技術への賭けから、すでに目に見える形で成長を加速させている事業へと変わりつつある。
AIがもたらした予想外の展開
しかし、今回の株価急騰の最大の要因となったのは、同社のAI事業への取り組みが思いがけず現実味を帯びてきたことだった。モバイル端末部門が在庫調整に取り組む一方で、同社は別の領域で着々と大きな布石を打っていた。
TikTokの親会社であるByteDanceにAIチップを供給する契約のニュースが大きく報じられた。さらに決算説明会では、経営陣がカスタム半導体の製造について「大手ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)との量産立ち上げを開始しています」と明らかにした。かつては単なる憶測にすぎなかったものが、明確なスケジュールを伴う新たな成長ストーリーへと変貌し、クアルコムの軸足はスマートフォンだけでなく、クラウドコンピューティングを支える広大なデータセンターへと広がりつつある。
この変革は、同社の総売上高の成長がすでに勢いを増すなかで進行している。過去1年間の増収率は5.2%と、過去3年平均の3.3%から上昇した。市場は業績の回復を歓迎するが、企業としての生まれ変わりをそれ以上に高く評価する。今回の61.7%の急騰は、クアルコムが単なる携帯電話向け半導体メーカーを超えた存在へと進化しつつあるという確信の表れである。
とはいえ、経営陣がいまだ中国Android向け売上高について「底打ちしつつあります」と語っている段階で、この株価は同社の変革の実態を先取りしすぎているのかもしれない。



