もちろん、だからといってこれらのIPOに投資するのは悪手だというわけではない。ただ、上場後の値動きは、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)だけを見て上がるか下がるかを判断できるような単純なものではなく、もっと複雑になるということだ。
過去のIPOのリターンは
筆者はなにも、読者がスペースXやアンソロピックの上場時に株式を購入するのを思いとどまらせたいわけではない。とはいえ、長年の投資経験なかで数多くのIPOサイクルを見てきた立場から言わせてもらうと、知っておくべきリスクはいくつかある。
金融サービス会社LPLフィナンシャルの株式調査責任者であるトーマス・シップは、1995年4月から2025年4月までにニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダックで行われたIPO約1500件について、上場後の株価パフォーマンスを調べている。それによると、初日終値からの1年間の平均リターンは10.5%だった。
一見すると悪くない数字だが、この平均値は極端な偏りによって押し上げられている点に留意する必要がある。たまに出現する桁外れの勝者を除くと、リターンは中央値でマイナス4.7%に下がる。調査対象銘柄の約6割は、IPO後の3年間リターンがゼロかマイナスだった。また、上場1年目にS&P500のパフォーマンスを上回った銘柄は、全体の4割ほどにとどまっていた。
もうひとつ踏まえておくべきなのは、IPOを実施する企業とそれを引き受ける投資銀行には、投資家が支払ってくれる限界まで価格を引き上げる動機が存在するということだ。本来、IPO価格に織り込まれている評価額は、IPO後に見込まれる成長余地から妥当と言える水準でなくてはならない。
スペースXの場合、これほどの評価額を妥当とするには、スターリンクの契約者数の伸び(それはたしかに目覚ましいものだが)だけでは足りず、軌道上のデータセンターや火星への入植といった、将来構想の実現への期待も含めないといけないだろう。イーロン・マスクがこれらを実現するところを筆者も見てみたいが、現時点で宙に浮いているのはそのスケジュールのほうだ。
わたしたちがいま経験しようとしているのは、非公開市場から公開市場への一世代に一度規模の富の移転である。衛星通信、AI、宇宙インフラという過去10年の技術進歩を体現する企業群が、ついに取引所にデビューし、一般の投資家も保有できるようになる。読者がIPOへの参加を考えているなら、強い確信をもって集中投資する際と同じような姿勢で臨んでほしい。


