大規模な軌道上インフラ
大規模な軌道上インフラの最初の実例となりそうなのが、スペースXが構想する軌道上データセンターだ。今年1月、同社は米連邦通信委員会(FCC)に対し、太陽光発電で駆動するAIデータセンターのメガコンステレーション(訳注:大量の衛星によって構成される衛星網)を構築するため、100万機の衛星を打ち上げる許可を求める申請書類を提出した。
その申請書には「軌道上データセンターは、加速するAIコンピューティング能力への需要を満たすための、最も効率的な手段である」と記されており、さらにAIの急成長を背景に、データセンターによる世界全体の電力需要は2035年までに2倍以上に増加し、世界全体の総電力消費量の最大4%を占めるようになると予測している。
未来学者であり起業家でもあるブレット・ハート(著書『Love Conquers Fear: Humanity, AI, and the Age of Abundance for All(原題)』)はインタビューの中で、「膨大な熱を発するデータセンターを極寒の宇宙空間で運用することは非常に理にかなっている」と語る。「データセンターを宇宙の冷気にさらすことができれば、冷却にかかるエネルギーを途方もなく削減できるからだ」
この構想はスペースXだけの専売特許ではない。欧州では欧州宇宙機関(ESA)が支援する概念実証が進められているほか、アクシオム・スペースやスタークラウド、グーグルの「Project Suncatcher」といった民間プロジェクトも動き出している。ESAによると、この構想の実現にはまだ10年から20年ほどかかる見通しだ。またロイター通信の報道では、スペースXは最近、軌道上でのAIコンピューターの運用は商業的に成り立たない可能性があるとの見解を示したという。
宇宙から地球へのワイヤレス送電
さらに可能性があると推測されているのがエネルギー分野だ。宇宙太陽光発電は何十年も前から研究されてきたが、近年の実証実験により、宇宙から地球へのワイヤレス送電が技術的に可能であることが証明されている。もし打ち上げコストが大幅に下落すれば、軌道上に巨大な太陽光パネルの集合体を展開することも現実味を帯びてくる。
ハートは「材料科学のブレイクスルーによって、地球に降り注ぐ太陽光のわずか18秒分でも捉えることができれば、米国における1年間分の全エネルギー需要を賄うことができる」と指摘する。「このエネルギー形態の謎を解き明かすことができれば、あらゆる不可能が可能になるだろう」。
かつては非現実的と思われていた巨大な通信プラットフォームや軌道上の産業施設といった概念も、スターシップの登場によって、技術的、そして経済的に達成可能な目標へと姿を変えつつある。
宇宙空間に巨大インフラを建設するというアイデア自体は何十年も前から存在していたが、従来の打ち上げコストの高さが足枷となり、ほとんどの構想は経済的に成り立たなかった。しかし、完全再利用型ロケットの支持者たちは、スターシップがその前提条件を根本から変えると主張する。軌道上へ物資を運ぶ費用が桁違いに安くなれば、かつてはSFの世界にすぎなかったプロジェクトが、にわかに現実的な商業投資の対象として注目を浴びるようになるかもしれない。


