サイエンス

2026.06.18 18:00

水に浸した指がしわしわになるのは「ふやけた」からではない

stock.adobe.com

これが生態に与えるプラスの影響については、明示しておくべきだろう。指先に生じるこのしわは、湿地の植生や小川から食物を採取していたヒト属にとっては、直接的に役に立つ特徴だったはずだ(こうした環境はまさに、無毛性の皮膚がある部位が、水に浸かる、あるいは、雨で濡れた地面に触れるところだ)。

advertisement

そうした場所で食物などをしっかりとつかめるか、つかみそこねるかという違いは、その個体の健康状態に現実的な影響を及ぼす。手が水に浸されたことで生じる指先の反応は、単なる「興味深い実験対象」ではない。特定の環境で繰り返し起きる「(進化につながる)自然選択」と対応するものだ。

ただしこの説には、2つの大きな反論があることは、ここで手短に、だがはっきりと触れておくべきだろう。1つ目は、同様の実験でも、被験者が、小さくて軽い濡れた物体を扱うよう依頼された場合には、しわのできた指先とそうでない指先のあいだで、先ほど紹介したような結果を再現できないケースがあることだ。これは「グリップ力仮説」に根底から疑問を突きつける実験結果と言えるが、小さな軽い物体に関しては、手で扱う際にほとんど摩擦力を必要としない、という事実で説明はつくだろう。

しかしもう一つ、より幅広い哲学的な反論があり、それは厳密に言えばいまだに有効だ。それは「ある特徴が、特定の機能を向上させるからといって、その機能を理由にそれが選択されたとは証明できない」という反論だ。

advertisement

科学的な議論は、まだ終わっていない。しかし、構造形態学、行動実績のデータ、そして、しわが生じる場所だけに共通する解剖学的特徴という3つのエビデンスを合わせると、適応説は、少なくとも現在提示されている説の中では最も筋が通っていると言えるだろう。

指先にできるしわのパターンは、人によって違う

2025年に『the Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials』で発表された研究は、しわの構造に関して重要な詳細情報を付け加えた。手を水に浸した時に収縮する血管は、解剖学的に固定されているため、結果として生じるしわの形態(指先に生じる、それぞれのしわの溝の正確な経路)は、手を水に何度つけても、一貫していて変わらないことがわかったのだ。

こうしたしわのパターンは繰り返し発生するので、これが各人にとって固有なものだと判明する可能性もある、と研究者たちは考えている。これが本当なら、科学捜査や生体認証への応用も期待できる。

水に濡れた状況でグリップ力を増すように進化した「指先のしわ」という形態が、偶然にも、人の身元を確認するマーカーとして使える可能性が出てきたということだ(ただし、当初の進化の選択の背景となった、水がある環境でのみ出現する特徴ではあるが)。

ここで、指先のしわに関する事象について振り返ってみよう。これは、体の表面の、解剖学的に見て適切な部位にのみ発現する反射的な反応だ。そのきっかけは、特定の環境からの刺激であり、幾何学的に一定の溝のパターンが生まれる。そして、このパターンが進化によって選択されたとみられる環境においては、グリップ力を増す効果があることが実証されている。このように多数のエビデンスが収束しているのは強力だ。

系統発生学の見地から厳密に言えば、これは、適応説の正しさを証明しているわけではない。それでもこうした収束は、妥当と考えられてきた以前の定説からシフトするのに十分ではないだろうか。

forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事