では、実際のメカニズムを説明しよう。指先を水に浸すと、皮膚の表面にある汗腺に、少量の水が入る。これによって起きるシグナルが、知覚神経の線維を通じて、自律神経系、具体的には交感神経系に届けられる。これは、心拍数や発汗反応、瞳孔の拡張などを制御しているのと同じ神経系だ。
シグナルを受け取ったこの神経系は、「収縮せよ」という命令を発する。これによって、皮膚の下にある血管が収縮し、組織のボリュームが減る。すると、内側からのサポートを失った指先の皮膚が、(その下にある血管の構造によって決まる線に沿いつつ)内側に引っ張られ、しわができる、という仕組みだ。
今ではこのプロセスは、臨床神経学の現場で、非侵襲的なシンプルな検査法として用いられている。それは、患者の手を30分間お湯に浸し、それによって生じたしわの深さを評価する、という方法だ。まったくしわができない(あるいはしわが浅い)場合は、交感神経系に何らかの損傷が生じていることを示している。つまり、水に浸されるとできる「指のしわ」は、診断のツールになるのだ。
さらに興味深いのは、しわが発生する場所だ。前腕や肩、あるいは手の甲といった場所に、しわはできない。しわができるのは、手のひらや指先、足の裏に限定されている。これらは無毛の皮膚で、物体や地面と触れる部分だ。この解剖学的に明確な特徴こそが、神経系が漏らした進化のサインだと言えるだろう。進化においては、複雑で代謝コストの高い反応が、理由もなしにピンポイントに発現することはめったにないのだ。
指先のしわは、水中でメリットがあるのか?
2013年に『Biology Letters』に掲載された研究では、「指先のしわは、水中でメリットがあるのか?」という疑問を実験で検証している。この実験では20人の被験者を、「30分間にわたって手を水に浸けたグループ」と、浸けていないグループに分けた上で、それぞれに対して、濡れたビー玉を、ある容器から別の容器へとできるだけ速く移し替えるよう依頼した。
指先にしわができていた被験者は、この濡れた物体に関するタスクを、そうでない者に比べて12%速く完了させた。一方で、乾いた物体に関して同じタスクを実行してもらったところ、こちらでは、しわのある指に有意なアドバンテージは確認されなかった。
濡れたものを扱う場合だけ作業効率が改善するという、この明確な実験結果はまさに、この変化は進化における適応だとする仮説が予想していたものであり、単なる偶然だとする説では簡単に説明できないものだ。
その後の研究ではこの発見を、手で物を握る仕組みに展開し、濡れた物体をしっかりと保持し続けるために必要な力を測定した。水に浸かっていたため指先にしわがある被験者では、まったく手が濡れていない被験者と同程度のグリップ力が発揮されていた。一方、濡れてはいるが、しわができていない指先の被験者の場合、同じだけのグリップ力を発揮するには、格段に大きな力が必要になった。
つまり、「しわのない濡れた手」では物体をしっかりと持つことができず、より大きな力が必要だったわけだ。要するに、指先のしわは単なる飾りではなく、グリップ力が増すという効果があったことになる。


