SBIがアメリカで進める「マイクロVC的戦略」
吉川:そうした中で、SBIとしては現在どのような取り組みを進めているのでしょうか。
山田:私たちはSBIグループの米国拠点として、現地スタートアップへの投資や戦略投資を通じた事業開発などを担っています。
昨年、我々のチームはアメリカに赴任してから、Plug and Playや新日本科学(SNBL)と組み、4千万ドルのファンドを立ち上げました。新ファンド設立以降、米国での投資は大きく加速しており、2025年4月以降だけでも20件以上の投資を実行しました。戦略投資も含めると、この約1年間での投資総額は500億円を超えています。
特にアーリーステージ投資において重要なのは、まず広く打席に立つことだと考えています。小さなチケットで数多く投資し、その後、勝ち筋が見えた会社にフォローオン投資をしていく。そして何より重視しているのがスピードです。アメリカでは、本当に良い案件は1〜2週間で決まってしまう。日本企業特有の慎重な意思決定プロセスでは、まったく間に合わないということをアメリカに赴任してから痛感しました。
実際、現地VCや創業者から「日本企業は遅い」と何度も言われました。だからこそ、我々は日本企業でありながらも、“マイクロVCのように動く”ことを強く意識しています。
さらに重要なのは、ネットワークを構築することです。スタートアップ側から自然と「日本企業ならSBIに相談しよう」と思われる存在になることを目指したいと思っています。
日本の製造業に再び追い風が吹いている
山田:今アメリカではAI、データセンター、ロボティクス、防衛テック、量子コンピュータなど、あらゆる領域で中国企業を想定した競争が加速しています。ただ、その中で明確になってきているのは、“アメリカ単独では製造を完結できない”という現実です。
特に地政学的な観点から、中国依存を下げたいという流れが強まる中、日本企業への期待はかなり高まっていると感じます。
例えば防衛テック領域でも、重要部材や精密部品を見ると、日本企業がかなり深く入り込んでいる。Anduril(アンドゥリル)がいい事例で、日本のサプライチェーンとの連携を強化しており、100%日本製のドローンの製造も行っています。
吉川:米国における日本への期待の高まりは、私も最近ひしひしと感じています。先日、中西部デトロイトに出張し、現地の再工業化の最前線を見てきましたが、ハードウェアのプロダクトを開発するスタートアップの多くは日本の部品や装置を活用しており、日本企業との協業に非常に熱心でした。また、米国の再工業化において、工場の自働化が必須になる中、FANUC(ファナック)など、そこに勝機を見出して動いている日本企業もあり、今後、日米の連携の事業機会が拡大することは間違いありません。
山田:最近、マイクロVCの方々と話していて印象的なのは、彼らが“未来の産業構造”そのものにベットしていることです。例えば、「AIによって製造業がどう変わるか」「防衛テックのサプライチェーンがどう変わるか」「ソフトウェア企業の組織構造がどう変わるか」といったレベルで仮説をもっている。だから、単に個社を見るというより、“次の時代の前提”を見に行っている感覚があります。
高:それが結果として、日本企業にとっても非常に重要なインサイトになると思っています。日本企業は強い技術や製造力をもち、R&D投資もGDP比3.45%で米国とほぼ同水準です。米国で800社超のユニコーンが生まれている中、GDPの規模の違いを考慮しても、日本でも100社以上のユニコーンが輩出されてもおかしくないはずです。しかし現実には日本ではユニコーンの数は十数社しか存在しておらず、商業化のエコシステムで決定的に差がついている状況です。その背景には、日本企業に根強い"市場が立ち上がってから動く"という帰納的なアプローチがある一方、米国のマイクロVCは"これから存在する市場の前提"を演繹的に立てて先回りでポジションを取っている、という違いがあるかと思います。その意味で、アーリーステージへのアクセスというのは、単なる投資ではなく、“次の産業構造を先回りして理解する行為”になっていると思います。
次にどんな産業が立ち上がるのか。その時、日本企業のどの技術が必要になるのか。それを早い段階から理解し、現地プレイヤーと関係を築いておくことが、今後ますます重要になると思います。


