事業継承

2026.06.11 14:15

創業120年、愛知の老舗缶メーカーが開ける「意味の製造業」の未来

側島製罐6代目 石川貴也

側島製罐6代目 石川貴也

創業120年の老舗缶メーカー、側島製罐。6代目アトツギの石川貴也が挑むのは、単なる周年事業ではない。縮む贈答文化、後継者不足、製造業の人材難。その逆風のなかで、同社は「缶」を文化資本として再定義しようとしている。筆者が瀬戸内VCと手掛ける、ローカルスタートアップとアトツギの専門番組「セトフラ」で石川に戦略を聞いた。

愛知県海部郡大治町に、明治39年創業の缶メーカーがある。側島製罐だ。菓子缶、海苔缶、あられ缶、クッキー缶などをつくってきた、いわゆる老舗のBtoB製造業だ。

同社はいま、創業120周年を記念した社史の書籍化プロジェクトをクラウドファンディングで展開している。

MotionGallery上では、コレクター519人、支援総額497万1720円を集め、目標金額200万円を大きく超えている(6月10日午前10時現在)。終了予定は2026年6月30日23時59分。さらに「1000人に届ける」ことを掲げ、1000万円・1000名というストレッチゴールに挑んでいる。

通常、社史は社内や取引先に配られる「内輪の記録」だ。だが側島製罐がつくったのは、社史に見えない社史である。缶の製造現場を撮り下ろした写真、70年以上缶をつくり続ける社員のインタビュー、グラフィックデザイナー原研哉と考える缶の企画、歌人・俵万智による短歌などを盛り込んだビジュアルブックとして構成されている。

ここで起きていることは、単なるクラウドファンディングの成功ではない。地方の老舗中小企業が、自社の歴史を「販売可能な文化資本」に変えようとしている点に意味がある。

創業120周年で制作した社史を手に「オープンヒストリー」の取り組みを紹介する石川
創業120周年で制作した社史を手に「オープンヒストリー」の取り組みを紹介する石川

缶は「懐かしいもの」なのか、「未来の素材」なのか

側島製罐が歩んできた市場環境は、決して追い風ではなかった。

番組内で石川は、缶業界について「すぼんでいる」と語っている。かつて120社ほどあった業界団体の組合員は、現在では半分ほどになったという。背景には、中元・歳暮に象徴される日本の贈答文化の縮小がある。家庭同士、会社同士で海苔や菓子を贈り合う習慣が弱まれば、当然、それを包む缶の需要も減る。

一方で、グローバルに見ると、金属パッケージは必ずしも衰退産業ではない。むしろ、サステナブル素材、保存性、リサイクル性という文脈で、再評価されつつある。

米国の大手アルミ包装メーカーBall Corporationは、2025年第2四半期にグローバルのアルミ包装出荷量が4.1%増加したと発表し、北米・欧州での缶需要の底堅さを背景に通期利益見通しを引き上げた。インフレ下で消費者が家庭内調理や缶入り食品・飲料を選ぶ動きも、需要を押し上げたと報じられている。

さらにインドでは、Ball Corporationがアンドラプラデシュ州の工場拡張に約6000万ドルを投資すると報じられた。インドの飲料缶市場は今後5年で年率10%超の成長が見込まれ、サステナブル包装やレディ・トゥ・ドリンク飲料の拡大が追い風になっている。欧州では、スチール包装のリサイクル率が2023年に82%へ到達し、アルミ飲料缶のリサイクル率もEU、英国、スイス、ノルウェー、アイスランドを含む地域で76.3%に達したとされる。金属パッケージは、循環経済のなかで存在感を増している。

つまり、缶は「古い贈答文化の名残」であると同時に、「グローバルな循環経済の素材」でもある。側島製罐の挑戦は、この二つの時間軸を接続する試みだ。

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文=堀 潤 写真=8bitNews

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