政府は2025年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025」で、中小企業・小規模事業者の賃上げ促進に向け、価格転嫁・取引適正化、生産性向上、事業承継・M&Aなどを柱とする「賃金向上推進5か年計画」の実行を掲げた。生産性向上については、飲食、宿泊、小売、製造業など12業種の「省力化投資促進プラン」に基づき、2029年度までの5年間でおおむね60兆円の生産性向上投資を官民で実現するとしている。中小企業庁の2025年版中小企業白書も、中小企業・小規模事業者が雇用の7割を占めると指摘している。
事業承継もまた、国家的課題だ。2025年版中小企業白書では、若手後継者を対象にした「アトツギ甲子園」など、後継者が承継先の経営資源を見直し、新規事業を考える支援の重要性が示されている。
石川の改革は、まさにその実践例である。
「オープンヒストリー」は、地方企業の新しい成長戦略に

側島製罐の社史プロジェクトは、周年事業であり、広報施策であり、採用ブランディングであり、顧客との関係づくりでもある。
だが、それ以上に重要なのは、歴史を未来の意思決定資源として開放している点だ。
古い会社ほど、目に見えない資産を抱えている。戦争を越えた記憶。職人の手。製品に宿る生活文化。取引先との信頼。だが、それらは言語化されなければ、次世代に引き継がれない。市場からも評価されない。
側島製罐は、それを「社史」という形で外に開いた。クラウドファンディングでお金を払って買ってもらうという行為は、会社の歴史に市場価格をつける試みでもある。
グローバル企業がスケールで勝負する時代に、地方の中小製造業が同じ土俵で戦う必要はない。むしろ、勝負すべきは「意味」の領域だ。なぜこの会社が存在するのか。なぜこの製品をつくり続けるのか。なぜ顧客はそこに託したくなるのか。
側島製罐のコピーは「OPEN THE CAN」。缶を開ける、という意味であり、可能性を開く、という意味でもある。
120年続く缶メーカーが開けようとしているのは、缶そのものではない。日本の地方製造業が持つ、まだ市場に出ていない価値のふたである。


