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2026.06.10 18:15

史上初、生成AIの長編映画がNYの映画祭で上映へ 映画業界に広がる波紋

映画『Dreams of Violets』

映画『Dreams of Violets』

6月10日、俳優やセットを使用せず、背景や登場人物、編集、音響、照明までを生成AIで制作した映画が、ニューヨークで開催される北米有数の映画祭「トライベッカ映画祭」の公式プログラムに選出された。デモンストレーション作品ではなく、通常の映画作品として上映されることになり、ハリウッドのみならず映画業界全体に大きな波紋を広げている。


「Dreams of Violets」と題された作品は、2026年にイラン国内で起こった民主化運動が弾圧され、デモに参加した5人が処刑された出来事を少年の視点から描いた75分の作品だ。本作は、主要映画祭が長編の生成AI作品を通常の映画作品として審査・上映する初の事例として、映画史に残る可能性がある。

生成AIが描いたイランの悲劇

プロデューサー兼監督を務めたのは、2009年にイランを脱出、英米へ亡命したAsh KooshaとPooya Kooshaの兄弟だ。彼らはAI・クラウドコンピューティング企業ClaigridとFountain 0の創業者でもある。Ash Kooshaは電子音楽アーティストとしても活動し、AIによる音楽生成やクリエイティブツール開発にも早くから関わってきた。

音楽、テクノロジー、映像制作を横断する新しいタイプのクリエイターとして評価される一方、この作品が自らの生成AI技術を宣伝するために制作されたのではないかとの批判も浴びている。しかしKoosha兄弟は、イラン国内での実写撮影は現実的に不可能であり、出演者や制作関係者の安全確保も難しい上、資金調達もほぼ不可能だったことから、生成AIという手段を選択したと説明している。

制作費わずか32万円の衝撃

さらに、この作品が既存の映画産業に衝撃を与えたのは、わずか2000ドル(日本円でおよそ32万円)という破格の制作費である。作品は75分に及ぶが、常識的に考えれば、この予算では数分の短編作品を制作することさえ難しい。

予告編や短尺のプロモーション映像を見た評論家たちは、完全な実写作品とは言えない部分もあるとしながらも、人物の表情や会話、映画的な照明表現、浅い被写界深度を再現した映像、実写と見紛うイランの街並みなど、高い完成度を評価している。

業界が衝撃を受けているのは作品の芸術性だけではない。生成AIによって、これまで巨額の予算や大規模な制作体制を必要としてきた映画制作の前提そのものが揺らぎ始めているからだ。

100年以上にわたり、映画産業は高度な専門技術を持つ職能集団と巨額の制作費を前提として発展してきた。アニメやゲーム、音楽分野では比較的低予算からの成功例も存在するが、主要映画祭で上映されるレベルの作品が、従来では考えられない規模の予算で実現されたことは、業界関係者にとって見過ごせない変化となっている。

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文=北谷賢司

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