著者らは、対策を講じなければ、都市の地下における極端な暑さは「地下鉄システムのユーザー体験に影響し続け、熱波や気候変動といった他の極端気象の影響と望ましくない有害なループを生み出すことになる」と述べている。
エアコンのパラドックス
こうした中、英国の気候変動委員会が、地球温暖化に関する新たな注目度の高い報告書を公表した。報告書は、英国のインフラが「もはや存在しない気候のために設計されている」として課題を整理し、政府に対し緊急の対応を求めている。主執筆者の1人であるジュリア・キングは、報告書に列挙された数多くの気候リスクの中で、最大の脅威となるのは極端な暑さだと述べた。「極端な暑さは、英国における気候影響の中で間違いなく最も致命的であり、冷却を大規模に展開する必要がある」。提言の中には、室内温度を下げる信頼できる手段として、建物に設置する空調機器の台数を増やすことも含まれている。
しかし、『Sustainable Cities and Society』に掲載されたシンガポールの研究は、こうした「能動的冷却」技術の普及が意図せぬ結果をもたらし得ることを示している。
この研究グループが関心を寄せたのは人間の行動である。具体的には、私的な冷却(個人の冷房利用)、家庭の電力需要、そして都市を涼しくする「公共の暑熱緩和策」(例:日陰の整備、都市の緑化)への支持の関連を探ろうとした。高密度で熱帯性、都市化が進み、空調へのアクセスがほぼ普遍的にあるシンガポールは、この研究にとって独自の適地だった。
研究者らは416世帯(成人967人)に調査を行い、その回答を空間的な暑熱データおよび実際の電力消費記録と組み合わせた。その結果、私的冷却への広範なアクセスは、人々が集団的な気候行動に関与しようとする動機を体系的に弱めることが分かった。研究者らはこの現象を「行動的断熱(behavioral insulation)」と呼ぶ。
「重要な発見の1つは、暑さを経験したからといって、自動的に省エネ行動や、より強い集団的な気候行動につながるわけではないという点だ」と、筆頭著者のナタリア・ボルジーノは述べた。「人々は気候への意識を高め、暑さについてより声高に語るようになる一方で、日常生活を回すためにエネルギー集約的な冷却に大きく依存し続ける可能性がある」。
この研究は、気候適応が単なる技術や物理的インフラの問題にとどまらないことを示している。社会的・行動的側面もあり、温暖化が進む将来においてはそれらも考慮しなければならない。


