創業1年目で企業価値1100億円、松尾研究所発ベンチャーが目指す「遍在型AGI」
汎用人工知能(AGI)は一般に、人間に匹敵する知能をもち、多様な問題に柔軟に対応できるAIと定義される。だが人間の知的活動は、日々変化する社会の状況、個人や企業の経験や事情のうえに成り立っている。そうした個々の文脈を取り入れられるよう、私たちが開発に注力しているのが「遍在型AGI」だ。使われるなかで、入力に対する応答を決めるパラメーターが継続的に更新され、用途に応じて独自に学習し成長する。
Third Intelligenceは、東京大学大学院教授の松尾豊が技術顧問を務める松尾研究所からのカーブアウトで2025年に事業を開始した。遍在型AGIは、松尾が長年研究を進めてきたヒトの大脳皮質の原理に着想を得た独自アルゴリズムによって、少ないデータから継続的な学習が可能。昨今主流の膨大なデータを必要とし、世の中に出た後は学ばないAIとは出発点から異なっている。
現在普及が進んでいるAIエージェントは、プログラミングや会計処理のような、ルールが明確でコンセンサスのある「インテリジェンス」型のタスクを得意とする。一方で事業上の意思決定や、採用における候補者の最終判断および企業文化への適合性評価といった、文脈や経験に基づいた判断を要する「ジャッジメント」型のタスクには十分に対応しきれていない側面がある。遍在型AGIは、後者において強みを発揮する。
具体的には、大きく三つの用途を志向している。ひとつ目は、長期的かつ複雑な処理を担うAIエージェント。例えば、経営会議で採用人数が決議されると、採用候補者の
母集団形成から実際の採用活動まで、自ら段取りを組んで業務を遂行するようなケースだ。ふたつ目は、フィジカルAIの領域。建設や製造、介護といった毎回異なる環境条件の現場で、熟練者の判断を学びながら作業を行えるようになることを目指す。三つ目は金融や医療、教育といった分野における、利用者一人ひとりの状況を学習したうえで提案やサポートを行うパーソナルAIとしての活用。これが最も実現に近いと考えている。
まずは26年中に消費者向けのプロダクトをリリース予定だ。複数のプロダクトを並行して展開するのではなく、ひとつにリソースを集中させて育てていく。当初からグローバル展開、特に米国市場を見据えており、市場調査は日米で進めている。エンジニアのチームも、シリコンバレー出身者と日本のメガベンチャー出身者の半々で構成されている。
社名のThird Intel l igenceにはふたつの意味を込めた。米国と中国がリードするフロンティアモデル開発における第三極となること。そして、既存のAIでも人間の知能でもない、両者のよさを併せもつ「第三の知能」を確立すること。AIをめぐる世界的な開発競争のなかで、日本に劣後したAIしか残らないという未来は避けたい。一部の産業や人に閉じない、すべての人をそばで支えるAGIを届けられるように取り組んでいく。
石橋準也◎東京理科大学在学中から、エンジニアリングと事業開発に注力し、ECやWebサービスの立ち上げ・グロース、DXプロジェクトの推進をリード。エウレカではCTO・COO・CEOを歴任し、Match Group東アジアのGMとして事業を統括。2025年3月、Third Intelligenceを共同創業。


