AIネイティブ「極小の巨人」の衝撃
グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーの湯浅エムレ秀和も、AIネイティブなスタートアップに熱い視線を注いでいる投資家のひとりだ。同社はもともとシリーズA以降を中心に投資していたが、22年設立の7号ファンドではシードから参画するケースが増えている。この変化について湯浅は、「AIによって新しいスタートアップがどんどん生まれていることの影響が大きい」と言う。「従来のように深く赤字を掘るのではなく、PMF(プロダクトマーケットフィット)した時点で黒字化するケースが増えている。ものすごいスピードで開発して、少人数で運営できるからだ。VCとして、シードからしっかりと投資しておかないと、早期の成長分を取り込めない。最近、面談するAIスタートアップは、ほとんどがそういった会社になってきている」。
少数が超速で成果を生み出す──。海外では、AIをフル活用して事業価値を創造する「ソロプレナー(一人起業家)」が注目されているが、日本にもこの波が押し寄せている。例えば、26年4月にシードで総額4億円の資金調達を発表したKikuviだ。同社は、米AI企業DataRobotやPE大手のベイン・キャピタルで活躍した佐藤拳斗が25年6月に設立。採用面接や顧客調査、組織サーベイなどで行われるインタビュー業務をAIが代替するプロダクトを手がける。設立後わずか3ヶ月で本格提供を開始し、「エンタープライズを主な顧客として、PoC(概念実証)ではなく年間契約で導入が進んでいる」と佐藤は言う。4月時点で従業員数は10人未満、フルタイムの正社員は代表の佐藤のみ。「最初のMVP(Minimum Viable Product)はすべて自分でつくった。営業など事業サイドの人員も今は私だけ。ファイナンスや広告の最適化などを含めすべてAIドリブンで行っており、少数でレバレッジをかける経営モデルだ。調達した資金で必要なリソースは揃えるが、最小の人数でやっていく」という。
つまり、資金調達環境だけでなく、スタートアップの戦い方そのものがアップデートの時期に差し掛かっているということだ。特に、ソフトウェア産業では、これまでの「人が使うデータ」から「AIが読み込みに行くデータ」へとデータ構造そのものを変えていく必要がある。これを、すでに組織が大きくなった既存のSaaSスタートアップがやり直すのは簡単なことではない。今後はあらゆる産業でAIネイティブなスタートアップがビジネスのあり方を塗り替えていく可能性がある。
こうした急速な技術のパラダイムシフトと資金調達の二極化が交差するなかで、起業家に求められる俊敏性は以前に増して高まっている。ジェネシア・ベンチャーズの田島は、現在の市場環境を以下のように説明する。「変化が非常に早いため、昨日までの『上りエスカレーター(市場そのものが自然に拡大していく領域)』が、気がつくと『階段(自助努力して一歩ずつ登ることで成長できる領域)』や『ボルダリング(現状維持すら難しい険しい領域)』に変わってしまうことがある。いかにスピーディーにビジネスを変革させていけるかが明暗を分ける」。


