アップルは、米国時間6月8日のWWDCで、スマートグラスを発表しなかった──しかし、スマートグラスの成功を確実にする上で重要になる機能を発表した。
2026年のアップル世界開発者会議(WWDC)の基調講演は、引き締まった75分で終わり、大きな驚きはあまりなかった。スマートグラスの発表、あるいはVision Proの意味のあるアップデートを期待していた人は落胆しただろう。ヘッドセットはアップルのデバイスラインアップの画像のなかで他の製品と並んで登場したものの、Vision Proに特有の発表は小さなものが1つあっただけだ。パノラマ写真を3Dの空間シーンに変換し、VisionOSの新しい没入型背景にできるツールである。悪くはないが、全体から見ればごく小さな話だ。
アップルがAIで通知をまとめる機能を明かす
それでも、子どもの安全やプライバシー対策と並んでイベントの大半を占めたAI関連の発表に注意深く目を向けていた人にとって、とりわけ目立ったものが1つある。うまく対処しなければスマートグラスの普及を台無しにしかねない問題に対する、初期の解決策として際立っていたのだ。Apple Homeと新しいAI機能のプレゼンテーションで、アップルは関連する通知が同じ行動に紐づく場合、複数を1度に送るのではなく、AIで通知をグルーピングすることを明かした。
スマートグラスメーカーが直面する、最大級の課題の1つ
これは、現在スマートグラスメーカーが直面する最大級の課題の1つ──通知の過多(notification overload)──への解決策となる。スマートグラス利用者が途切れることのない、吐き気を催すほどの通知の集中砲火にさらされる世界を警告する『Hyper Reality』のような映像作品は、いまだSFの領域にある。だが、現在私たちがスマートフォンで受けているのと同種の「ピン」という通知音ですら、認知的過負荷(cognitive overload)を引き起こし、人々を遠ざけかねない。
では、より賢い通知の世界を想像してほしい。今のところ、私の「メッセージ」アプリでは、あらゆるメッセージが同じ重みで表示される。例えば、立て続けに3通のメッセージが届いたとしよう。1通目は友人の夫からで、彼女の手術がうまくいったという知らせ。2通目は別の友人からで、来週ディナーに行かないかという誘い。3通目は、存在しない私の自動車保険がまもなく失効するという通知だ。1通目は私にとって見て返信すべき非常に重要な内容である。2通目はうれしいし返信するが、作業を中断するほど緊急ではない。そして3通目は、そもそも目に入るべきではない(もっとも、これほど高度なAIの時代になっても、私たちが詐欺のSMSやメールを受け取り続けているのは滑稽でもある)。
だが、スマートグラスがメッセージの優先順位を判定できる方法があれば、その瞬間に重要なものだけを提示し、残りは保留にできる。やがてこのフィルタリングはさらに良く、賢くなっていくだろう。例えばスマートグラスがユーザーがランニング中やワークアウト中であることを感知したら、集中を切らさないよう最重要のメッセージ以外は保留する。逆に、ソファに座って1時間インスタグラムをスクロールしていると感知したら、さほど忙しくないと判断し、より多くのメッセージを通すかもしれない。
もう1つの大きな問題
もう1つの大きな問題は、現時点でインテリジェント通知(intelligent notifications)がアップル純正アプリでしか機能しない点である。iPhoneのリーチを考えれば、サードパーティーアプリは自社製品にApple Intelligenceを組み込むためにアップルと提携すべきだろう。しかし、これには時間がかかる可能性があり、すべてのアプリがそれに前向きとは限らない。長期的には、これはスマートグラスの普及に意味のある影響を与えうる。
例えば、Gmailアカウントのスパム通知や、LinkedInのメッセージ通知を引き続きすべて見せられるのなら、スマートグラス体験全体に悪影響を及ぼすだろう。スマートグラス設計に関する標準やベストプラクティスがさらに整備されていくにつれ、ユーザー体験を改善するため、より多くのアプリがスマート通知を取り入れていくことを期待したい。
まもなく新たなリーダーシップが訪れる
「one more thing(もう1つだけ)」の大発表を期待していた私たちは、今日はそれを得られなかった。だが、失望しすぎる必要はない。基調講演は、退任するCEOティム・クックによる心のこもった謝意のメッセージで締めくくられた。これは、世界で最も重要なテック企業の1つに、まもなく新たなリーダーシップが訪れることを意味する。アップルのモデルは、常に他社に先行させ、その後でクラス最高(best-in-class)の製品を投入することにある。主要テック企業のほぼすべてがスマートグラス市場に参入しているか、近く参入する状況を踏まえれば、洗練された新しいヘッドマウントデバイスが登場するのもそう遠くないはずだ。



