世界最大の小売企業が、世界最大の消費者向けドローンメーカーとタッグを組むと宣言した。
ウォルマートは10月26日、米連邦航空局(FAA)に対し、中国DJI社製のドローンを使った屋外での試験飛行の許可を申請した。ロイターによると、実証試験の対象となるのは、店舗での商品の受け渡しや、店舗から家庭への宅配で、屋内での無人航空機(UAV)を使ったテストは既に完了しているという。
ウォルマートの名前は誰もが知っている。しかし、このニュースで注目を浴びたのは、ドローンメーカーのDJIだ。9年前に誕生したDJIは、消費者向けドローン業界を独占するトップメーカーだ。価格が1,000ドルを切る空撮カメラ搭載のクアッドコプター型(プロペラ4枚)「Phantom 3」を中心に、消費者向けドローン市場で70%のシェアを持つと推測される。5月に実施した資金調達ラウンドでの評価額は80億ドル(約9,600億円)に達した。
「我々は、ウォルマートがドローンでの配送サービスに乗り出すことにとても興奮しています」とDJIの広報担当者であるマイケル・ペリーはフォーブスに語った。
業界の専門家の中には、今回のウォルマートの発表は、競合に後れを取っていないことをアピールするために行ったものだとして、同社の計画に懐疑的な見方をする者もいる。
「ドローン活用は企業のイメージアップには最高の話題だ」と建築や測量に特化した商業用ドローンのスタートアップであるKespryのCEO、Paul Doerschは話す。Doerschは、2013年後半に放映された人気ドキュメンタリー番組「60 Minutes」の中で、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスがドローン配送サービスについて語ったことで、同社に大きな注目が集まったと話す。
「ウォルマートがどのドローンを使うかは重要なポイントではない。彼らは、自分たちも負けていないことを見せたいだけだ」
Doerschは、ウォルマートがアマゾンと同じように本格的な取り組みを行うかは不明だとし、同社がDJIの製品を選んだことは、本計画がまだ実験の初期段階にあることを示していると指摘する。
一方、DJIにとってウォルマートとの関係は、消費者向け以外の市場でも存在感を示す上で強力な武器になるだろう。DJIに近い情報筋は、同社のドローンに関心を示している世界規模の小売企業はウォルマートだけではなく、インドのFlipkartが既に接触を図っているとしている。
現状、DJIの顧客の多くは消費者や中小企業で、空中写真や動画の撮影が主な用途となっている。同社の売上高は、2015年に10億ドル(約1,200億円)に達する見込みだが、これまでは物流や配送用ドローンの開発からは距離を置いてきた。
DJIに近い情報筋は、同社が直ちに宅配用ドローンの開発を行う計画はないものの、ウォルマートが顧客になることで、既存のリソースを活用して新たな市場に参入する貴重な機会になるとしている。ロイターとニューヨーク・タイムズによると、ウォルマートが試験飛行を予定しているのは、「Phantom 3」と「S900」の二機種だという。S900の価格は1機3,800ドル(約45万6,000円)。6枚のプロペラを駆動し、プロカメラマンによる撮影に使用されることが多いドローンだ。FAAはドローンの商業目的での飛行を禁じており、個別の商業利用については企業ごとに申請をし、FAAが承認をすることになっている。
ウォルマートの広報担当者であるダン・トポレックはニューヨーク・タイムズに対して次の様に語っている。
「当社の約100万平方フィート(9万2900平方メートル)ある物流センターの中をドローンが飛行して在庫管理を行う光景を想像してみて下さい。それだけでなく、我々はドローンを物流センターから配送センターや店舗まで飛ばすことも検討しています」