今夏すでに運賃上昇が顕在化
スピリット航空の廃業後のデータは厳しい現実を示す。CBSニュースが航空データを分析したところ、スピリットが撤退した路線では平均運賃が23パーセント(約60ドル)上昇し、旅客数も20パーセント減少した。
前出のフォートローダーデール空港ではスピリット航空が総旅客キャパシティの約29パーセントを占めていたため、影響はとりわけ深刻だった。
さらに事態を悪化させているのが燃料費の高騰だ。中東情勢(イラン関連の紛争)によりジェット燃料価格が急騰し、2026年初頭だけでスピリット航空の追加コストは1億ドルを超えていた。フロリダ、ラスベガス、デトロイト、ニューヨーク/ニューアーク、ヒューストン、カリブ海・中米路線では、今夏すでに運賃上昇が顕在化している。
フロンティア航空やJetBlue、Avelo、BreezeなどのLCCが一部路線への参入を表明しているが、夏のスケジュールはすでに確定済みのため、本格的な穴埋めには3カ月から6カ月かかる見通しだ。
「今夏は航空運賃が上がる。2026年後半から2027年にかけて格安航空(LCC)各社が一定程度補完するだろうが、スピリット航空は市場全体の2パーセントの国内線を担っていたため、その規模は容易には埋まらない」と旅行予約サイトの「TravelPirates」は分析する。
また、投資家にとっては、スピリット航空の末路はより悲惨なものだった。
2024年11月に2度目となるChapter 11(連邦破産法11条)を申請した時点でスピリット航空の株はNYSEから上場廃止となり、OTC市場(ピンクシート)で「SAVEQ」として取引されるようになっていた。
それでも一時、ホワイトハウスが5億ドルの政府融資を検討するとのニュースで株価が1.80ドルまで急騰した。しかし債権者グループが救済案を拒否すると、株価は72パーセント急落して0.39ドルにまでなっていた。
清算手続きでは、株主は弁済順位の最後尾に位置する。個人投資家向けの金融メディアである「MotleyFool」は「スピリット航空の株主が清算で何かを受け取れる可能性は低い」と明言した。
振り返れば、同じLCCのJetBlueによる買収(1株33.50ドル)が、バイデン政権の反トラスト法適用で2023年に阻止されたことが転換点だった。その後、超低コストキャリア(ULCC)モデルに「スピリットファースト」などのプレミアム席を加える戦略転換を図ったが、コスト構造の改善には至らなかった。燃料費急騰が最後の引き金を引いた形だ。
スピリット航空は1992年の創業(前身のチャーターワンは1980年創業)以来、34年間、超格安運賃で数百万人の旅行を支えてきた。手荷物も座席指定も有料という「アンバンドル」モデルを確立し、航空業界全体の価格競争を促した先駆者でもあった。その消滅は、単なる1航空会社の倒産ではなく、アメリカの「格安航空時代」の終焉を象徴している。
筆者の住むラスベガスでも、第1ターミナルの3分の1ほどのカウンターを一時は占めたスピリット航空だったが、いまは看板の撤去が進んでいる。廃業により直接的な影響を受けた従業員は1万7000人(社員1万4000人+契約社員3000人)。その痛ましさは何とも表現しようがない。
今夏の旅行を考えているなら、早めの予約が賢明だ。専門家は口をそろえて言う。「良い料金を見つけたら、待つな」と。


