歴史あるブランドが鎬を削るスイス時計業界の中で、2018年に創業した時計ブランド「ノルケイン」。彼らは挑戦者として独自性を磨き、品質の高い製品と積極的なプロモーションによって多くのファンを獲得してきた。その熱狂を生みだす挑戦心は、Forbes JAPANが注目する次世代起業家たちが体現してきた挑戦とも共通するだろう。
今回は来日した「ノルケイン」副社長のトビアス・カッファーが、北口拓実(Grand Central 代表取締役CEO)、秋元里奈(ビビッドガーデン代表取締役社長)、甲山翔也(REJECT 代表取締役)という3名のアントレプレナーを迎え、「ノルケイン」が掲げる挑戦という信念について語り合う。
今回は「ノルケイン・ジャパン」CEOの濱鍜健治が、トビアス・カッファーのサポートを務め、ファシリテーターは、Forbes JAPAN執行役員Web編集長の谷本有香が務める。
谷本:まずは自己紹介も兼ねて、3人のアントレプレナーに最近の挑戦について聞きましょう。
北口:私は営業の領域に特化したコンサルティングやアウトソーシングの会社を経営しています。世界で戦えるメイド イン ジャパンのコンサルティングプレイヤーはまだ存在しないので、そこに挑戦したい。
会社は5期目となりましたが、ここ2年間ぐらいは、組織の整備やオペレーションを作り込む期間とし、無理に成長させないことを意識していました。そのおかげで組織の完成度は、80%までにはなったでしょう。これが100%になったら人材をもっと増やし、会社の規模を拡大させていきたい。ですから今は、自分の理想とする組織に、どれだけ近づけるか、オペレーションとカルチャーを作り込めるかがチャレンジですね。
秋元:私が始めた「食べチョク」というサービスは、今年で10年目になりました。生産者さんが、自分自身で価格を決めて、消費者さんに直売できるオンラインのプラットフォームですが、業績も順調に伸びていて、現在のユーザー数は国内で135万人を突破。登録している生産者さんは1万1000件ぐらいですね。
ビジネスとしては順調ですが、高齢化もあってこの2年ぐらいで農家さんの“離農”がすごく増えているんです。だからこそ、農業が次の世代へと受け継がれる状況を作りたい。業績が伸びても農業界には、まだまだ貢献できていないという思いもあったので、新規事業を立ち上げました。
谷本:具体的には、どういったことをやられているのでしょうか。
秋元:ひとつは、生産者さんPR支援です。いいもの作ってるけど、それが伝わらない、売れないという状況があるので、PRを支援する必要があると感じています。もうひとつは、自分たちで食材を買い取らせてもらい、冷凍食品として加工して販売しています。国産素材にこだわった冷凍食品ブランドですね。
谷本:なるほど、それは素晴らしい取り組みですね。甲山さんはいかがですか?
甲山:私は、2018年にeスポーツの会社「株式会社CYLOOK」を設立し、現在は「株式会社REJECT」というeスポーツの会社を経営しています。私たちのチームは日本で1番賞金を獲得するチームであり、また7月から始まるeスポーツのワールドカップにも、国家代表で何人か選手を送り出していますので、まずはこの大会で結果を出すというのがチャレンジですね。また競争力が高いチームという強みを生かし、ゲームのデバイス機器の開発といった周辺マーケットの開拓にもチャレンジをしてます。
楽しむ気持ちが、挑戦へと繋がる
谷本:「ノルケイン」という時計ブランドも、挑戦するブランドだと聞いております。チャレンジすることは、ノルケインの創業家で副社長であるトビアス・カッファーさんにとって、どういう意味があるのでしょう。
トビアス:ノルケインはまもなく創業10年を迎えます。ご存知の通り、時計業界は100年以上の歴史があり、多くの素晴らしいブランドがあります。さらにマーケットとして新しいブランドを求めている人たちがほとんどいない中で、2018年に時計ブランドを立ち上げました。それは使命として、スイスの文化としての機械式時計を残していきたいという思いがあったからなんです。
素晴らしいブランドがたくさんあるなかで、ノルケインが独自性を表現するために“スイス・メカニカル・スポーツウォッチスペシャリスト”として、ノルケインしかできないチャレンジを続けています。
谷本:しかしこれだけ難しいマーケットの中でブランドを確立するには、苦労もあったのでは?
トビアス:まず自分自身を信じ続けること、そしてチームを信じることだと思います。ネガティブな意見にあまり耳を傾けすぎない、楽しんで続けることがチャレンジを続ける上ではとても重要だと思います。
谷本:3名のアントレプレナーも「ノルケイン」と同じ様に、0から1を作ってきました。そのとき、何を重視しましたか?
甲山:振り返ると、怖いもの知らずで、なんでもできるという気持ちで進んでいた時が、一番成長角度が高かった。ですからトビアスさんの「楽しんで続ける」という気持ちはすごくよくわかります。
秋元:私は「努力する人は、夢中な人に勝てない」という言葉が好きです。起業して10年、この仕事をしていると、さすがに初期に比べると熱意が下がってるなと思う瞬間があります。
そういう時は、とにかく畑に行って、農家さんに会う。そうすると創業当時の熱意を思い出します。だから自分が夢中になれる環境を、意識して作り出すことは必要ですね。
北口:私は文化を作る、組織を作るということを重視しました。ベンチャー企業にとって、特に創業してすぐの時期は“組織の強さ”が重要。そのためには、カルチャーを作って強いメンバーを集めることが大切ですし、みんなにどれだけそのカルチャーを浸透できるかを意識しました。
トビアス:北口さんの話を聞いて、我々と同じだと思いました。ノルケインも、チームが目指すべきビジョンとかミッションを、本音で語り合います。そうすると自然とみんなが同じ気持ちになれますよね。

信頼こそが、次の扉を開くカギとなる
谷本:企業として大きくなっていくためには、お客様やマーケットからの信頼はとても大切だと思います。皆さんは、信頼というものをどうやって積み重ねてきたのでしょう?とくにスイス時計業界で新しくブランドを立ち上げるというのは、相当難しいことだと思いますが。
トビアス:時計業界においては、何よりも品質が重要です。ブランディングもマーケティングも重要ですが、品質がそれに追いつかなければ、2年ももたずに消滅するでしょう。
マーケットからの信頼を得るためには、前提条件として品質が高く、品質価格比の高い製品をユーザーに届け続けることではないでしょうか。
そのためには、まずはベースをきっちり作った上で、イノベイティブであるという姿勢を取り続けました。ベースがあるからこそ、他がやっていないことは何か、ノルケインらしさとは何かを、考えることができますから。
谷本:高級時計においては、品質とイノベイティブな個性が求められるのですね。皆さんの場合はいかがですか?
北口:私の場合、営業戦略みたいな話になりますが、信頼を勝ち取るために“一点突破全面展開”という手法を使います。とにかく赤字でも無料でもいいので、まずは業界の最大手に、当社のサービスを使ってもらうこと。そこで信頼が生まれれば、その業界に深く入っていけますから。
秋元:私たちの場合、ユーザーというのは、農作物の生産者さんと、それを買ってくださるお客さんの両方になりますが、私たちは創業から一貫して“生産者ファースト”を掲げています。
消費者が安くてよいものを求める状況のなかで、我々は生産者にしっかり利益が残る仕組みをつくることを目標にしてきました。例えば自然災害が起きたりとか、気候変動で生育が悪くなったりといったことがありますよね。そういう時に真っ先に動いて、生産者支援を無償で行います。
そういう生産者と向き合う一貫した姿勢が他社との違いとなり、生産者を応援している企業として、生産者からもユーザーからも選んでいただけるようになりました。

甲山:皆さんと違って僕らの場合、まず信頼をいただかないといけないのは、選手の親御さんでした。というのもeスポーツの選手って、未成年も多いんです。さらにeスポーツという業界自体が始まったばかりで認知度も理解度も低かった。しかもチームの代表が、当時19、20歳の僕ですから、普通は信頼してもらえませんよね。
そこで意識したのが、選手のユニフォームでした。ここに誰もが知ってる企業の名前が入っていれば信頼してもらえるでしょう。ですから知名度の高い企業とスポンサー契約を結ぶことは、信頼を得て良い選手を獲得ための重要な部分でもありました。

ポジティブな気持ちで周囲を巻き込む
谷本:現代の日本では挑戦をしない、リスクを取らないことが当たり前にもなっています。挑戦に対して躊躇している人たちに対して、何かアドバイスはありますか?
北口:挑戦し続けると、なんか快感になるんですよね。求められることに対して、純粋に向き合うことは、生きる意味にも繋がるんじゃないでしょうか。
逆に売り上げや認知度ばかりに目を向けると、途端に挑戦する心が失われるかもしれません。本来志していたところに向かい続けることが重要で、それができている組織とそうじゃない組織が生み出すサービスや製品は、同じように見えても全然違うと思います。
トビアス:志は大切ですよね。ノルケインのブランドアンバサダーである、元サッカー日本代表の岡崎慎司さんも、挑戦に純粋に向き合う人物です。彼は現在ドイツで、ヨーロッパ1部リーグの監督を目指して奮闘しています。また、彼がドイツで味わった困難を、次の人たちが乗り超えられるように若い選手のサポートもしている。挑戦する人もいれば、しない人もいる。でも挑戦するとなった場合は、目指す方向に正しく導いてあげる人が必要になりますから。
秋元:挑戦にはリスクがつきものだからこそ、人との出会いは大切です。私自身も超安定志向でしたが、ふとしたきっかけで農業に関するビジネスに興味を持ちました。ただ起業するには至らず、悩んでいたところ、年下の起業家から強く背中を押されました。
“やらない理由”って、ライフステージの変化や体力の衰えなど時間がたつほど増えていくもの。今が1番若いんだから、そこで挑戦しないと、それもリスクなんだなってその時に気づかされたんです。だからまずは1歩踏み出して、後悔しない人生を歩んでほしいな。
北口:挑戦している方がカッコいいし、魅力的。挑戦している方が、人生は豊かだと思っているので、人生一度のきりなのに、もったいないですよね。
甲山:そもそも起業ってネガティブよりは、ポジティブな気持ちで行うものですよね。だからその状況を、無邪気に楽しむことも大切だと思います。日々の小さなことにも感動できる日常を送っていると、挑戦しやすい環境になるのではないでしょうか。
トビアス:ポジティブな時間をつくることは、すごく大切ですよね。私はブランドが始まってから、日本だけでなく世界中を飛び回っていて、家族と過ごす時間がない。だから今は、4歳の娘との時間をどうやって増やすかを考えて始めています。だから時にはポジティブにNOという選択をするのも、自分の生き方としてすごく大事なことかもね(笑)。
ビジネスは時間との勝負でもある。より良いサービスや商品を開発し、それを求める人に届けることは、経営者の責務でもあるだろう。
だからこそ、そこに流れる時間に対しては、ポジティブな気持ちで向き合いたい。いつも前向きな挑戦心でスイス時計業界に切り込む「ノルケイン」の存在は、大きな支えになるかもしれない。

Montres NORQAIN SA
https://norqain.com/ja/
トビアス・カッファー◎ノルケイン 副社長。時計や宝飾のブランドでセールスの経験を積み、実兄でノルケインCEOのベン・カッファーに招かれ、21年5月から現職。主にセールス部門を担当し、世界各地を精力的に回って、ノルケインの情熱を伝えている。
きたぐち・たくみ◎Grand Central 代表取締役CEO。立命館大学経営学部を卒業後、キーエンスに入社。法人向けコンサルティングセールスを行い、史上最年少売上レコードを更新。2021年Grand Centralを創業し、代表取締役CEOに就任。
あきもと・りな◎ビビッドガーデン 代表取締役社長。1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。DeNAを経て独立。2016年にビビッドガーデンを創業、2017年に一次産業の生産者が、消費者に直接商品を販売できる産直通販サイト「食べチョク」を立ち上げた。
こうやま・しょうや◎REJECT 代表取締役。1999年生まれ。中学生時からeスポーツ選手として活躍。現役を引退し2018年に起業。プロeスポーツチーム「REJECT」は、累計獲得賞金額で日本一に成長。現在はチーム運営やゲーミングブランドとして教育事業などを展開。



