ブルックスは「何年前からAIへの最適化を計画していたのか?」という質問には応じなかった。しかし、一般的な半導体設計のサイクルを考えれば、少なくとも数年前から現在のハードウェア構成を見据えていたと考えるのが自然だ。
今年初め、アップルとグーグルは、次世代のApple Foundation ModelsをGeminiモデルとグーグルのクラウド技術を基盤に開発する複数年の協業を発表した。よりパーソナライズされたSiriを含む、将来のApple Intelligence機能を支えるという。
しかし、フロンティアモデルそのものの性能競争は、アップルの唯一の主戦場ではない。アップルは、デバイス上で効率的に動き、デバイスの機能や使いやすさに直結する小型モデルも自社で開発している。そして、Apple Intelligenceという体験のレイヤーで、自社開発のモデル、デバイス上の処理、クラウド上の処理、外部技術を統合する。
ユーザーは、どのモデルがどこで動いているのかを意識する必要がない。あらゆるデバイス、そしてクラウド上のフロンティアAIモデルまで含め、シームレスにつながる。その体験を設計し、制御できることこそが、アップルの握る本質的な価値だ。
WWDCで示される、次の一手
取材の終盤、筆者はブルックスに二つの話題を投げかけた。一つは、M5ファミリーを超える派生モデル、すなわちUltraクラスのチップへの期待があること。もう一つは、そうしたチップがAIモデル開発の環境として使われるなら、強化学習を含む訓練の現場では、NVIDIAがCUDAで積み上げてきたソフトウェアの蓄積が、なお大きな価値を持つことだ。その上で、Mac Studioの先行きに期待を寄せる読者へ、何かメッセージはあるかと尋ねた。
「未発表のハードウェアについては語れない」と前置きした上で、ブルックスはこう応じた。
「来週のWWDCキーノートに、ぜひ注目してほしい。毎回、何か新しいニュースがある。将来のMac Studioのロードマップに対して、顧客が大きな期待を寄せていることは、はっきりと耳に届いている。ただし、未発表のハードウェアについて、今日の時点でコメントできることはない」
Macを長く担当してきたブルックスらしい答えだ。アップルはAppleシリコン上で言語モデルを効率的に動かすため、MLXというAIフレームワークを整えてきた。主要なトレーニング済みモデルの多くは、MLX向けに変換された形でも入手でき、Appleシリコンのアーキテクチャ上で極めて効率的に動作する。
筆者がDGX Sparkと比較した範囲では、M5 Maxのデコード性能、すなわち生成スループットはおよそ2倍に達し、プリフィル性能もほぼ同等の水準まで近づいた。「トレーニング済みモデルを使う」という視点で見るとき、さらに規模を拡大したUltraクラスのチップに対する期待は大きい。
アップルが目指すのは、コンピューティングを通じた最良のユーザー体験という、ただ一つの高みである。iPhoneからMac Studioまで一貫した設計思想でつながっている強みが、この先どのように生かされるのか。
WWDCのキーノートで示されるのは、新しいチップやモデルの先にある、「より良い体験とは何か」という問いへの、アップルなりの答えになるのだろうか。ブルックスが残した「含み」が何であるのか、その答え合わせに期待したい。


