第四の設計:予測する里山と専門職化
「間合い」の管理は、データと専門人材によって強化される。目指すのは、クマが現れてから対応するのではなく、その動きを予測して備える社会である。
AIカメラ網、ドローン・衛星監視、GPS首輪と機械学習による個体識別、気象と堅果作況を統合した出没予測モデル ── 兵庫県森林動物研究センターはすでにこの方向で先行している。これらを統合すれば、「クマ出没予報」が天気予報のように見られる社会インフラが構築できる。
そして、これを運用する人材として、「ガバメントハンター制度」を再設計する必要がある。北海道砂川市が先行し、国のクマ被害対策施策パッケージでは2030年度までに自治体の捕獲従事者を2,500名規模に拡充する目標が示されている。この制度を、単なる駆除員ではなく、生態学者・GIS技術者・コミュニティマネージャーを兼ねる地域専門職として位置づけ直す。「鳥獣管理士」を高度公的資格として格上げし、CoIUのような探究型大学院と接続させる。近代が分断した「自然科学」と「現場知」と「コミュニティ運営」を、ひとつの専門職像として再統合する ── ここに、辺境発の新しい知の編成がある。
第五の設計:関係人口と分散コモンズ
里山はもはや地元住民だけで維持する時代ではない。都市に住みながら里山に関わる人々を、制度的に組み込む発想が必要だ。
二地域居住・多拠点居住の税制支援、企業のCSRとしての森林整備、大学・高校のフィールドステーション。山形県西川町、新潟県、長野県軽井沢などでは、里山コモンズの新しい所有・運営モデルの実証実験が始まっている。所有の固定化が空き家問題の最大の障壁だった日本において、これは構造的なブレークスルーになりうる。
第六の設計:食の循環
そして最も本質的なのは、食の循環である。
空き家をジビエ加工施設に、別の空き家を発酵食品の蔵に、別の空き家を地域食堂に、屋敷林を地域コミュニティ農園に。捕る→加工する→食べる→分配するを集落内で完結させる。これは、フランスのテロワール思想、イタリアのスローフード運動、デンマークのNoma的食文化を、日本の里山という固有の土壌で再構成する試みである。
私が婦人画報で加藤峰子シェフ(ファロ資生堂)と連載している「一皿の光、百年先のデザート」、藤本壮介氏と進めるsoranotaniの試み、富山県のレストランL’évoの実践 ──。これらは個別の試みに見えて、すべて食を媒介とした「間合い」の再構築である。一皿のジビエが、一握りのえごまが、その土地の生態系の健全性そのものを物語る。食は、最も身近で、最も深い、景観の翻訳装置である。
そして、ここまで紹介してきた六つの設計の先には、さらに踏み込んだ実験的可能性がある。ブロックチェーン技術を用いた里山コモンズのトークン化、AI予測モデルと連動した動的ゾーニング、空き家を介した医療・教育のリモート配信。これらはまだ社会実装の入り口だが、「縮減」を「再編集」に変えるための、次の波として準備されつつある。


