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カルチャー

2026.06.25 15:45

あわいの森を、もう一度編む──人と野生動物の間合いを実装する「里山2.0」の設計図 | 宮田裕章の辺境未来論 第9回

第二の設計:経済の再埋め込み

里山が崩れた根本原因は、経済的役割を失ったことにある。薪炭、落ち葉堆肥、狩猟 などが暮らしから消えた瞬間、里山は誰のものでもなくなった。「保全のために守る」という発想だけでは持続しない。新しい経済の埋め込みは、すでに次の4つの軸で同時進行している。

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1. 再生可能エネルギー
岡山県西粟倉村、岐阜県の各地が先行する小規模分散型のバイオマス発電・熱供給。里山の手入れが、地域のエネルギー自立と直結する。また飛騨では井上博成氏らが、地域の小流域を活かした小規模分散型の小水力発電に取り組んでいる。健全な森林が豊かな水循環を支え、その水が地域の電力になる。森と水と暮らしが、ひとつの循環として再び繋がっていく試みである。バイオマスと小水力という ふたつの分散型再生可能エネルギーは、いずれも里山が健全に手入れされて初めて成立する。自然の再生が、そのままエネルギー基盤の再設計になるという、これからの地域社会の核心がここにある。

2. ジビエの産業化
捕獲された鹿や猪を中心に、地域内で安全に処理し、食肉・革製品・教育素材として循環させる。野生鳥獣肉の流通は、食品衛生法上の規制対象であり、独自の衛生管理を伴う食肉処理施設での処理が前提となる。熊についても、地域の安全確保と個体管理の議論を避けるのではなく、倫理・衛生・文化の三つを踏まえた慎重な利活用を考える必要がある。狩猟は、単なる駆除ではなく、文化と経済と責任を伴う営みとして再設計されるべきだ。

adobe stock
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3. カーボンクレジット
J-クレジット制度の活用で、適切な森林管理が直接収益化される。これは国際的なESG投資の潮流とも接続する。

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4. 里山ツーリズム
狩猟体験、森林療法、教育プログラム。2026年4月に開学したCo-Innovation University(CoIU)は、まさにこの実証フィールドそのものとして位置づけられる。

第三の設計:アルベルゴ・ディフーゾ ── 集落をひとつの宿として

イタリア中部の山村で生まれたAlbergo Diffuso(アルベルゴ・ディフーゾ:分散型ホテル)という仕組みがある。集落に点在する空き家を一軒ずつリノベーションし、集落全体をひとつのホテルとして運営する。フロントは集落の中心、客室は点在する古民家、レストランは地元食堂、ロビーは広場。

イタリア・ラツィオ州ラブロ村。アルベルゴ・ディフーゾの実践例の一つ
イタリア・ラツィオ州ラブロ村。アルベルゴ・ディフーゾの実践例の一つ

日本でも岡山県矢掛町、香川県男木島、愛媛県大洲などで先行例が出ている。これを「里山コモンズホテル」として制度化し、複数の空き家所有者が一括で運営主体に貸し出せる仕組みにすれば、相続未登記という日本特有の障壁も信託スキームで迂回できる。

なぜこれが「間合い」の再設計になるのか。人の関係性の密度が、集落のあわいの空間を再び編み直すからだ。観光客、関係人口、地元住民、運営者、料理人、農家、ハンターなど、多様な人々が集落に出入りすることで、放置されていた藪が刈られ、空き家が手入れされ、獣道が再び人の道として認知される。人の流量が、間合いを回復させる。

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文=宮田裕章、編集=松崎美和子

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連載

宮田裕章の「辺境」未来論 ──Resonant Regions

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