カルチャー

2026.06.21 13:30

消滅危機の黒米をベストコスメ賞150冠に導いたFAS井上みなみの原料開発

「肌にいいもの」を追求してたどり着いたのは、古代米のひとつである「黒米」だった。その選択が、限られていた用途を拡張し、持続的な需要を生んだ。


京丹後の一角に広がる田んぼ。夏には、青々とした稲が風に揺れる。ここで栽培されているのは、化粧品の原料となる古代米の一種「黒米」だ。「発酵と科学」をテーマに、2023年10月にローンチされたスキンケアブランド「FAS」。発売から約2年でベストコスメ賞を150冠以上受賞し、伊勢丹新宿店にも出店。独自成分は、黒米を発酵させた「黒米発酵液」。1滴に738種もの成分が含まれるという。

FASが原料に使用するのは「瑞雲黒米」という品種。玄米の種皮が紫がかった黒色で、有効成分が発酵により引き出される。
FASが原料に使用するのは「瑞雲黒米」という品種。玄米の種皮が紫がかった黒色で、有効成分が発酵により引き出される。

FASのブランドマネージャーを務めるシロクの井上みなみが開発に着手したのは、ローンチの約3年前のこと。発酵の解析技術が進み、食品や医薬品分野でも活用が広がるなかで関心をもった。製品のもととなる発酵液に含まれる成分の内容や量は、何を原料とするかによって決まる。「日本には優れた原料も発酵の技術もある。そこに最新のテクノロジーを組み合わせ、今だからこそできる発酵原料をつくりたい」。そんな思いで開発を進め、黒米だけでなく、白米や玄米など、さまざまな素材をさまざまな菌と組み合わせて試した末に、発酵液に肌にいい成分が非常に多く含まれていた黒米に行きついた。

しかし、この黒米は、明治期の政策で栽培は縮小し、神事用途に限られるなど市場としては成立していなかった。その後、古代米は再普及したが、年間生産量は多い年でもわずか540kg程度だった。「発酵は原料によって出来上がるものがまったく変わります。だからこそ、誰とつくったどんな素材を使うかが、製品の価値を決めると考えました」

黒米エッセンスを核成分としたFASの代表製品。発酵によって引き出された有効成分が、肌に多面的にアプローチする。
黒米エッセンスを核成分としたFASの代表製品。発酵によって引き出された有効成分が、肌に多面的にアプローチする。

安定的かつ高品質な供給を実現するには、栽培段階から関与する必要があった。「既存の流通に頼るだけでは、求める品質には届かない。自分たちでかかわるしかない」、そう決意した井上は、京丹後で毎年黒米を栽培してきた芋野郷赤米保存会会長の藤村政良に協力を求めた。往復6時間かけて京丹後に何度も通い、農家と協働しながら、栽培方法の見直しや、無農薬、無肥料への転換などを進めていった。「農業は本当に大変です。ましてや無農薬、無肥料で栽培するのはすごく難しい。時間も手間もお金もかかりますが、私たちの魅力と価値の源泉になる」。

その結果、黒米の栽培面積は4年で約20倍となる22a(約2200m2)まで拡大し、さらに3月には食用としての黒米の販売も京都東山本店で開始した。FASは、限られた用途にとどまっていた黒米を原料に使用することで、継続的な需要を生み出した。地域に人流が生まれ、若者がかかわるようにもなった。

「国産ブランドが苦戦するなかでも選ばれているのは、日本の原料に向き合う姿勢を大きな価値と感じていただけているから。今後も長期スタンスで取り組み、長く肌を預けられる製品をつくり続けたい」


いのうえ・みなみ◎シロク常務取締役、発酵エイジングケアブランド「FAS」事業責任者。2015年に新卒でサイバーエージェントに入社後、子会社シロクに出向。17年にオーガニックスキンケアブランド「N organic」を、23年に「FAS」を立ち上げた。

文=三ツ井香菜 写真(ポートレート)=帆足宗洋 (AVGVST) 編集=松崎美和子

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