国内

2026.06.22 10:30

ソニー発スタートアップの現在──欧州でも完売続出「着るクーラー」の好調が続く理由

ソニーサーモテクノロジー株式会社 代表取締役の伊藤健二氏にインタビューした

「まだ世の中にないもの」を売るためにクラウドファンディングを活用した

プロトタイプが完成した後には、「世の中にないもの」をどう認知させ、売っていくかという大きな課題が横たわった。伊藤氏はまず、身近にいる同僚や友人・知人にプロトタイプを体験してもらい、ウェアラブルサーモデバイスのニーズの種を確認した。続く段階では生命保険会社に勤める営業職のビジネスパーソン約50人にヒアリング・インタビューを実施し、「外まわりの辛さ」という課題を、ウェアラブルサーモデバイスが解決できる可能性を確認した。

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しかし、一方ではより多くの時間を要する大規模な市場調査は行わなかった。

「まだ世の中にない、新しいプロダクトについてアンケート調査を行ったところで、例えば適正と思われる商品価格などは感覚的な回答しか得られません。真の検証は、実際にお客様に価値を見出していただける場を作るところから始めたいと考えました」

そこで活用したのがクラウドファンディングだった。2019年夏にソニーが運営するクラウドファンディングサイトの「First Flight」で実施したプロジェクトでは、開始後わずか6日で目標額の7000万円を達成し、4200台が完売。メディアからも大きく取り上げられ、「着るクーラー」という概念が脚光を浴びた。

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最新モデルのREON POCKET PRO Plus。本体に2つの独立した冷温モジュール「DUALサーモモジュール」を備え、「COOL」モードによる動作時にはさらに冷却効果を高める
最新モデルのREON POCKET PRO Plus。本体に2つの独立した冷温モジュール「DUALサーモモジュール」を備え、「COOL」モードによる動作時にはさらに冷却効果を高める

都市圏のビジネスパーソンを見据えたターゲット設定も絶妙だった。通勤時間、あるいは緊張しがちなプレゼンテーションの場面でのクールダウンに活用してもらうことを視野に入れたことから、REON POCKETは「衣服に隠れる目立たないデザイン」になった。これが、約2000万人という巨大なパイを持つ都市圏を中心とするビジネスパーソンの期待に刺さったのだ。

「飛行機」ではなく「軽自動車」、アジャイルな経営姿勢

大企業発の新規事業が陥りがちな罠について、伊藤氏は独自の視点を持っている。

「大企業的な経営は『飛行機』に似ています。目的地を固定し、初期に大規模投資をする。しかし、離陸後に市場の変化などの想定外の事態が起きても、ルート変更は困難です。私たちは『軽自動車』の経営を目指しました。走りながら計画を練り直し、雨が降れば停車し、事故があれば迂回する。状況に応じて小型から大型へ乗り換える柔軟性。このアジャイルな姿勢が、黒字化の鍵でした」

初期投資を抑え、市場のフィードバックを受けながら小さく、すばやく改善を繰り返す。ハードウェアをつくるビジネスにおいて、伊藤氏の持論は「『言うは易く行うは難し』だが、それを実践するのは容易ではない」というものだ。しかし、ソニーの既存アセットを活用することで、初期のハードルを下げることができた。

「まったく新しいものをゼロから作ると、販売価格の壁を越えられません。私たちは当初、SoCやバッテリー、既存の販路基盤といったソニーのアセットを約80%活用し、新規要素は残りの約20%に抑えました。例えば他社製品との差分となるサーモモジュールなど、新しい部分によりいっそう注力しました。これにより、適切な価格でお客様に提供することができました」

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編集=安井克至

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