北野は、この取り組みの本質を「3つのT──Tradi t ion(伝統)、Terroir(地域性)、Technology(テクノロジー)」で説明する。三者が交差する領域にこそ、新たな価値が立ち上がる。
「我々の役割は、個別の技術をもち込むことではなく、複数のサイエンスとテクノロジーをどう組み合わせるかを設計することです。こうした取り組みは、技術だけでは成立しない。これまで積み重ねられてきた伝統や知見、そして土地や生態系と結びついたとき、初めて新しい価値が生まれると思っています」
KYOTO SILK HUBでは、桑の栽培から養蚕に至るまで、複数のレイヤーを同時に扱う。どんなDNAをもつ蚕がどんな個性をもった糸を吐くのか。どんなタイミングで、どんな桑を蚕に給餌するとよいのか。土壌の水分量や微生物の状態、気候条件によっても桑の成分は変化し、それが蚕の生育や糸の品質に影響する。そのため、土壌水分センサーや微生物のメタゲノム解析などを用いて環境を可視化し、AIによって最適な条件を導き出す。さらにロボティクスを組み合わせることで、桑の管理や養蚕のプロセスを精密に制御することを目指す。
「このプロセスは非常に複雑で、まだほとんど解明されていません。土壌、植物、蚕、それぞれが相互に影響し合うなかで、最終的にどんなシルクが出来上がるのか。始まったばかりでまだ道のりは長いですが、この研究を進めていけば、蚕だけでなく、ほかの農産物や生命体にも横展開できるようなヒントが非常に多くあると感じています」(北野)


