AI

2026.06.07 08:00

トークン課金が露呈させたAIのROI不在、危機に瀕する数千億円規模の賭け

stock.adobe.com

stock.adobe.com

AnthropicはシリーズHで650億ドル(約10.4兆円。1ドル=160円換算)を調達し、評価額は9650億ドル(約154.4兆円)に達したばかりである。ところが同じ週、同社の大手企業顧客の1社が、利用上限額を設定し損ねたために、わずか1カ月で同社のAIモデルに5億ドル(約800億円)を誤って費やしてしまった。この両者の隔たりは、AIの普及状況、そして生成AIやAIエージェントの投資対効果(ROI)について多くを物語っている。

生成AI時代の大半を通じて、企業向けの価格設定は実質的に補助金で支えられていたようなもので、不透明だった。定額制(サブスクリプション)の料金が無制限のトークン消費を吸収していたため、個々の業務にかかる実際のコストは財務部門から見えないままだった。

それが一変したのは2026年第1四半期である。AnthropicとOpenAIが、企業顧客をひそかにトークンベースの従量課金へと移行させたのだ。この転換により、それまで曖昧だった予算項目が、業務ごとに測定可能なコストへと変わった。そして、そこで明らかになったROIの欠如が、一部の投資家を不安にさせている。

最近、最も広く知られた事例がウーバー(Uber)である。同社はエンジニアリング部門全体にほぼ全面的な規模でAIツールを導入した結果、2026年分のAIコーディングツール予算を4月までに使い切ってしまった。その後、最高執行責任者(COO)のアンドリュー・マクドナルドは米国時間5月25日のカンファレンスで、エンジニアの95%が毎月AIを利用しているにもかかわらず、そのトークン支出と消費者向け製品の意味ある改善とを結びつけられないと認めた。「そのつながりはまだ存在していません」とマクドナルドは語った。

一方マイクロソフトは、Claude Codeの請求額がエンジニア1人あたり月500〜2000ドル(約8万〜32万円)に達する事態に直面し、Claude Codeの直接ライセンスを解約し始め、エンジニアを自社のGitHub Copilotへと戻していった。

ROIの問題には2つの層がある。第1の問題は出力品質である。LLM(大規模言語モデル)はハルシネーション(事実と異なる内容の生成)を起こし、同じ処理を繰り返し、予測の難しい形で失敗する。そして失敗した実行も、結果にかかわらずトークンを消費する。

第2の問題は価格設定である。AI業務のコストを測る標準的な単位が存在しない。なぜなら同じ業務でも、プロンプト(指示文)、モデルのバージョン、コンテキストウィンドウ(文脈の処理許容量)、そしてエージェントが誤った判断を下すか否かによって、消費するトークン数が大きく変わるからだ。トークンベースの課金は支出を可視化したものの、それが妥当かどうかを判断できるようにしたわけではない。

次ページ > トークンは買う価値があると証明できるか

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事