AIは「使う」のではなく「共に働く」チームメイトになる―そんな働き方が現実になりつつある。感知・理解・実行の全工程を自律的に担う「Agentic Engine」は、1,500社超の支援実績から生まれたプラットフォームだ。その全貌をThinkingAI代表取締役 呂 承通に聞いた。
2026年4月、シリコンバレーで正式発表され、日本市場への本格参入を決めた「Agentic Engine」。シンガポール、サンフランシスコ、上海、東京、ソウルなどグローバルに拠点を構えるThinkingAIが、創業から10年のデータ分析実績をもとに開発した企業向けAI Agentだ。
市場の変化を読み取り、その背景を理解してアクションを起こす。優れたビジネスパーソンが日々の業務で回している「感知・理解・行動」のサイクルを実装したことが、「Agentic Engine」の大きな特徴だと代表取締役の呂 承通は言う。
「全域感知と深い理解力、データを社外に出さずにクローズドループで業務実行まで完結できる点が、汎用AIと『Agentic Engine』との違いです。全域感知機能では、24時間365日、企業がもつあらゆるチャネルからの情報をすくい上げます。コールセンターに寄せられたお客様の要望やアプリ上にあがった評価レビュー、社内会議で議論されたままの課題など、あらゆる情報を自動的に関連付け、企業にとっての事業上あるいは組織上のアラートを発信していきます。
これらを、各企業にある社内用語や独自の定義なども理解したうえで、過去事例と照合させながら完全にカスタマイズしたかたちでできるのが、『Agentic Engine』の独自性です」
日本企業へのAI導入においては、データ流出への懸念がひとつのテーマとなることが多いが、「Agentic Engine」はその点も織り込み済みだ。
「各社専用のクラウドやオンプレミス環境を利用するプライベートデプロイ対応によって、データの安全性は確実に守られます。日本市場への参入において、欠かせないポイントだと考えています」
眠らないAIチームメイトがビジネスを変える
2015年に創業したThinkingAIは、これまで10年間、1,500社超、8,000以上の製品にデータ分析サービスを提供してきた。特に強みをもってきたのはゲーム業界だ。短期間で膨大なデータが集積され、リアルタイムの分析による運営施策の実行がプロダクト成長に直結するのがゲーム業界であり、「生存圧力の非常に高い市場のなかで、データ分析知見を磨いてきた」と呂は自信をのぞかせる。
データ分析ニーズは今や業界横断で高まっており、ソーシャルメディアやEC、小売業界などで、同社のノウハウは幅広く生かせると期待している。
「ある大手ゲーム会社で突然ゲームの離脱率が上がったときには、深夜3時に課題を検知したAI Agentがすぐに分析を始め、原因を特定しました。翌朝、チームメンバーが出社したときには、最適化施策と対応方針が提示されている状態になっていた。AIは、もはや、“質問したら最適な情報を分析しテキストで回答してくれる”という存在にはとどまりません」
最先端のAI技術が実現するのは、「実行まで完了」する働き方。コンサルタントではなく、「チームメイトとしてAIと働く」世界がもうやってきていると話す。
「例えばPowerPointの資料を作成するとき、AI Agentは作成まで完了してくれます。各企業のデータベースから社内用語やデータ定義、ワークフロー、業務理解を深めたうえで資料をつくっていくので、そのまま実務で使えるようなPowerPointが出てくるのです。もし、指示された業務が最初は実行できなくても、『その業務を任せられるように、必要な能力を学習してほしい』と伝えれば、自らインターネット上でスキルやツールを探し出し実装することができる。もはや、自走できるチームメイトのひとりのように。各社の業務体系に沿ったかたちで学び、スキルを拡張させていくことができるのです」
「AIと働く」時代 勝つ経営者の条件とは
では私たちは、AIと働く未来をどう迎えるべきなのか。必要なのは、「AIと人間のやるべき業務範囲を分けること」にあるという。AIを導入しさえすれば業務が効率化される、という発想ではもはや足りない。テクノロジーの進化に受け身で対応するのではなく、人間側も自分の役割を能動的に問い直し、再定義していくことが求められる時代がきたのだ。
「企業によって業務内容やワークフローは異なります。組織をリードする経営者やリーダー層のみならず、個々人も自らの業務範囲を再認識したうえで、AIと同時に仕事をするためのワークフローを再設計する必要があるでしょう。
そして、AIというチームメンバーが出してきたアウトプットをどう検証・評価するか。新たな評価システムの立案が、これからの経営陣に求められていきます」
AI Agentがもたらすのは、業務における単純な事務作業からの解放であり、人が本来もつ、優れた能力の発揮である。近い未来に、AIはさらに進化し、人のように幅広いタスクを実行し、想定外の状況にも自律的に課題解決を進め適応するようなAGI(汎用人工知能)が登場するかもしれない。現在は研究開発段階だが、もしそれが実現するのなら、それまでに私たち人間が磨くべき力は何か。キーとなるのは「創造性」だと呂は言い切る。
「手を動かして実行するのはAIに任せられるのですから、これから私たちは、向かうべき方向を決め、何をつくるべきかを示していかなければいけない。それが創造性です。ルーティンワークから人を開放し、人がやるべき本質的な仕事へと立ち戻らせることが当社の哲学であり、AI Agentの企業導入を進めた先に見る未来図です」
働くことの意味が根本から変わろうとしている
人が駆動していた従来の会社や組織の在り方が、AI駆動を中心とした組織へと変わっていく。作業からの解放といえば聞こえがいいが、その作業に存在意義を見いだしてきた人間たちはいったいどこへ向かえばいいのか。つまりそれは、人の幸せはどこに向かうのか、という誰もが向き合わざるをえない哲学的な問いとなるだろう。
「幸せの定義は時代や環境によって変わってきました。産業革命は人を体力労働から解放し、AI時代は人を能力労働からも解放していくでしょう。自分は何を生み出したいのか、戦略づくりと品質管理の自分なりの基準をもち、自分自身の外ではなく内側に、人生を通じて実現したい何かを見いだしていかなくてはなりません」
内なる思いに突き動かされた私たち人間と、実行に向けてカスタマイズした知見を学習しながら進化を続けるAIのチームメイト。その組み合わせが生み出すのは、これまでの働き方の延長線上にはない、まったく新しい創造のかたちだ。人間とAIがそれぞれの強みをもち寄り、互いを補い合う――Agentic Engineが、かつてない創造的な働き方をリードする一翼になるのかもしれない。
ThinkingAI
https://thinkingai.io/jp/
呂 承通(リュ・チェントン)◎上海大学でコンピューターサイエンスを修め、テンセント・インタラクティブ・エンターテインメントでエンジニアとして5年間のキャリアを積んだ後、2015年に30歳でThinkingAIを創業。ゲーム業界向けデータ分析から出発し、10年でグローバル1,500社超を支援する企業へと成長させた。



