スペースXが6月にIPO申請する可能性についての報道や憶測が飛び交ってから3カ月も経たないうちに、同社は計画を加速させ、具体的な条件を提示した。史上最も注目され、かつ物議を醸す株式公開の1つとなりそうだ。
1株135ドル固定で、約5億5560万株の新株を売り出す
ロイターの独占報道によると、「事情に詳しい」匿名の情報筋の話として、スペースXは1株当たり135ドル(約2万1465円。1ドル=159円換算)の固定公開価格を設定する方針だ。また、約5億5560万株の新株を全額プライマリー・オファリング(新株発行)で売り出すことで、史上最大となる750億ドル(約11.93兆円)の調達を目指している。これが意味する評価額は1兆7500億ドル(約278.25兆円)に達する。ティッカーシンボル「SPCX」でナスダックに上場する準備が進んでいる。上場は最短で米国時間2026年6月12日となる見通しで、それに先立ち投資家向けロードショーが間もなく開始される。
3月の憶測が現実となった。スペースXは4月1日に米証券取引委員会(SEC)に非公開で届出を行い、5月20日にS-1を公開し、猛スピードで手続きを進めている。調達資金はスターシップの「常軌を逸した打ち上げ頻度」の実現、スターリンクの拡大、軌道上AIデータセンターおよび関連インフラに充てられる。ロイターによると、マスクの保有株には366日間のロックアップ(売却制限期間)が設けられている。
S-1が掲げる約4531兆円の市場規模
スペースXのS-1届出書は大胆を通り越して傲慢ともいえる内容で、企業概要からSF小説のような世界へと一気に飛躍する。同社は届出書類の中で、定量化可能な総潜在市場(TAM)を史上最大の28兆5000億ドル(約4531.5兆円)と主張している。そのうち約26兆5000億ドル(93%、約4213.5兆円)はAI関連の機会から生じるという。具体的には、連続的な太陽エネルギーと自然の真空冷却を活用した軌道上データセンターがその源泉だとしている。
スペースXは自社をまずAIインフラ企業として位置づけ、スターリンクをキャッシュフローの源泉、スターシップをその実現手段としている。届出書類は、低軌道上に最大100万基の「AI Sat Mini」衛星を展開する計画を強調し、これを「カルダシェフ・スケールのタイプII文明」への道筋と結びつけている。批評家や一部のアナリストは、これを楽観的に見ても投機的だと指摘している。
財務状況は一筋縄ではいかない。2025年の連結売上高は186億7000万ドル(約2.97兆円)に達した。一方で純損失は49億4000万ドル(約7854億6000万円)に上り、前年の7億9100万ドル(約1257億6900万円)の黒字から転落した。2026年第1四半期の売上高は46億9000万ドル(約7457億1000万円)に達したものの、AIとスターシップへの多額の設備投資が重く、損失はさらに拡大した。
評価額1兆7500億ドル(約278.25兆円)を前提にすると、2025年の株価売上高倍率(PSR)は約94倍となり、大半のテック企業の比較対象をはるかに上回る。モーニングスターの最新のディスカウント・キャッシュフロー(DCF)分析は、適正価値を7800億ドル(約124.02兆円)と算定している。IPOの目標価格はこの見積もりの2倍以上であり、直近のプライベート市場でのセカンダリー取引の評価額に対しても、大幅なプレミアムが乗っている。



