素材や生産の源流に立ち返り、文化や市場を再設計する経営のあり方──それを「源流経営」と呼ぶ。プロダクトの機能や便利さで差別化が難しくなった今、企業価値をどこからつくるかがより問われている。その最前線にいるのが、文化や地域資源を起点に価値を生み出すカルチャープレナーたちだ。
「これからは完成した製品そのものよりも、それがどのような経緯や工程で、どんな思いでつくられたのかという“プロセス全体”が価値を生む時代。この潮流は今後も加速するだろう」
経営学者で早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄は、こう指摘する。AIやデジタル化の進展によって機能や品質での差別化は限界を迎え、プロダクト単体で価値を上げることは難しくなった。価値の生まれる場所は製品の外側へと広がり、企業はあらためて「どこで価値を生み出すのか」という問いに直面している。
そのひとつの解となるのが、素材や生産工程の源流に立ち返り、そこから市場やバリューチェーンを再設計する経営のあり方だ。本稿ではこれを「源流経営」と呼ぶことにする。とりわけ食やアパレルの領域では、素材の起源や生産の背景そのものがブランドをかたちづくる。もちろんこのような取り組み自体は以前から存在してきたが、現在起きているのは、それがこだわりや個別の差別化にとどまらず、経営モデルとして広がり始めている点にある。
例えば西陣織の老舗・細尾代表の細尾真孝は、織物という下流の領域を超え、養蚕という産業の最上流にまで踏み込み、国産シルクの新たなラグジュアリー市場を再設計しようとしている。北海道コンフェクトグループの長沼真太郎は、菓子づくりの起点である原料へとさかのぼり、放牧酪農にまで踏み込んでいる。その他、この後のページでいくつかの企業を紹介するが、いずれも価値の起点にさかのぼることで、新たな市場そのものを立ち上げようとしている点に特徴がある。
では、なぜ企業は今、源流へと向かうようになったのか。入山は、その背景に複数のメカニズムがあると指摘する。第一に、従来の分業型のサプライチェーンでは、市場取引に伴う調整コストや契約コストが想像以上に大きくなっているという点だ。とりわけ日本では、商習慣の形骸化によってそのコストが高止まりしており、「市場で分断されたまま取引するよりも、垂直統合したほうが合理的なケースが増えている」という。さらに重要なのは、そうした分業構造そのものが、現在の市場環境と合わなくなってきている点だ。これまでの流通は卸や問屋を介した多層的な分業を前提としてきたが、その構造のなかでは、素材の背景や生産プロセスといった要素が十分に伝わらず、本来の価値を引き出しにくい。とりわけ小ロット・高付加価値のビジネスにおいては、その分断がむしろ制約となる。



