カルチャー

2026.06.19 14:30

なぜLVMH系ファンドは日本に500億円を投じるのか。「源流経営」が競争力になる理由

日本の「構造的ゆがみ」の解決法とは

大西 洋|羽田未来総合研究所 元代表取締役社長執行役員

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世界の玄関口で仕事をしていると、日本の現在地の変化を日々実感します。GDPがすべてではありませんが、日本は現在世界4位。訪日客の動きや消費の実態を見ると、日本はもはや経済大国ではなく、中進国としての前提に立つべき段階にあります。価格や規模で勝つことが難しいなかで、どこから価値を立ち上げるのかが問われています。

日本のクリエイティビティは世界から評価されていますが、それをどう産業に結びつければいいのか。そのヒントは、地域や生活に蓄積された文化や技術つまり、「生活文化産業」にあります。2023年に羽田空港内に日本のものづくりを集めたブランド「Japan Mastery Collection」の店舗を立ち上げ、売り上げは年間10億円規模に達しました。

一方で、日本の構造にはゆがみがあります。国内消費が海外ブランドの利益となり、その資本が日本企業の買収に向かう──価値が国外に流出する循環が生まれています。だからこそ、個々の企業ではなく、産地単位で価値を設計する視点が必要です。福岡県大川の家具、岡山・児島のデニムのように、産地を一体でとらえ、ブランドとして編集し、マーケットをつくる。地域に根ざした文化を起点に産業を再構築することが、戦略になります。このままでは海外ブランドだけが価値を回収する構図が固定化しかねません。自ら価値の起点に立ち、文化と産地から市場を設計し直す必要があるのです。

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おおにし・ひろし◎伊勢丹にて、店舗開発や海外勤務を経て新宿本店メンズ館のリモデルを主導。三越伊勢丹HD社長などを歴任し、2019年から羽田未来総合研究所社長。26年3月に退任。


伝統工芸はなぜ衰退し、どうすれば再生するのか

齋藤峰明|シーナリーインターナショナル 代表、エルメス パリ本社 元副社長

私は長年、ラグジュアリー産業に携わってきましたが、そのなかで強く感じてきたのは、日本のものづくりの潜在力の高さです。消費者は、素材や背景にある歴史まで理解したうえで「良いもの」を選ぶ。日本はラグジュアリービジネスにおいて特別な市場でした。

一方で、日本の伝統工芸は急速に衰退しています。多くの産地では、本業だけでは生計が成り立たず、不動産など別の収入に依存しているのが現実です。若い世代の関心は高いものの、職業として成立しないため担い手が育たない。この問題の本質は、文化ではなく産業構造にあります。重要なのは、「残す」ことではなく、「成立させる」ことです。実際、生き残っている工房は、次世代が新しい視点をもち込み、従来とは異なるかたちで市場と接続しています。海外デザイナーとの協働や、新たな用途開発など、伝統を固定せず更新しているのです。

さらに、日本には他国にない強みがあります。ヨーロッパでは多くの工芸が失われ、ブランドや国家によって管理されるかたちに移行しましたが、日本では無形文化も含め、長い時間をかけて蓄積されてきた文化が今なお残っています。だからこそ、日本の工芸は単なる保存対象ではなく、新たな価値を生み出す起点になりえます。伝統を過去のものとして扱うのではなく、現代の市場と接続し直すこと。それが、日本のものづくりを次の産業へと転換する鍵になると考えています。

さいとう・みねあき◎素材や地域資源を起点とした価値創出に取り組む。各地の産業支援や事業開発に携わり、伝統や自然資源を現代の市場へ接続するプロジェクトを推進。

文=松﨑美和子 イラストレーション=ニール・ウェブ

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