カルチャー

2026.06.19 14:30

なぜLVMH系ファンドは日本に500億円を投じるのか。「源流経営」が競争力になる理由

加えて、情報の非対称性が解消されたことで、消費者は「何から、どのようにつくられているのか」というプロセスそのものに目を向けるようになり、つくり手は生産過程を隠せなくなった。こうした複数の変化が重なった結果、素材から一体で価値を設計し、既存の流通に依存せずに自らバリューチェーンを組み替え、価値の起点そのものに関与する方向へと向かう企業が増えている。源流にさかのぼる動きは、こうした構造変化の帰結である。

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特に、小ロットで高品質で価値を成立させる企業にとって、この動きは決定的な意味をもつ。従来の大量流通では十分に伝えきれなかった素材や背景を含めて価値を設計することで、独自のポジションを築くことが可能になるからだ。とりわけ文化や地域資源に深くかかわる分野においては、源流にさかのぼること自体が、今後の事業戦略の中核をなしていく。

ブランド価値は、どのような価値を提供し続けるのかという“約束”で決まる。その信頼は時間のなかで積み上がっていく。だからこそ、素材や土地、歴史といった文化の源流にまで踏み込み、それを一貫したストーリーとして紡ぎ続けることが、ブランドの強度を高めていく。短期的な最適化ではなく、時間軸のなかで価値を育てる。その前提に立ったとき、源流にさかのぼるという選択は、単なる差別化ではなく、持続的な競争力を生み出すための戦略となる。

経済合理性を突き詰めた結果の投資

では、この動きはなぜこれまで日本では広がってこなかったのか。入山は、日本では文化や風土といった要素を経済的価値の源泉としてとらえる発想が十分に育ってこなかった点を挙げる。分業と効率を前提としたバリューチェーンが発達するなかで、文化は経済の外側に置かれてきた。しかし、今その前提は大きく揺らぎ始めている。

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Bloombergによれば、LVMHが出資する投資ファンドL Catterton は、日本への投資を加速するという。今後3年で約500億円を投 じ、外食や食品、化粧品などの中堅企業を対象に投資を進める見込みだ(写真はパリのLVMH 本社ビル/Bloomberg)。
Bloombergによれば、LVMHが出資する投資ファンドL Catterton は、日本への投資を加速するという。今後3年で約500億円を投 じ、外食や食品、化粧品などの中堅企業を対象に投資を進める見込みだ(写真はパリのLVMH 本社ビル/Bloomberg)。

こうした変化は、日本の内側だけで起きているわけではない。2026年3月、ラグジュアリー最大手LVMHが出資する投資ファンド、L Cattertonは、日本への投資を加速させる方針を明らかにした。今後3年で約500億円を投じ、外食や食品、化粧品などの中堅企業への投資を進めるという。対象には、地域に根ざした事業を展開するローカルブランドも含まれる。いずれもすでに成立したビジネスでありながら、グローバル展開されていない点に特徴がある。ここから読み取れるのは、完成されたプロダクトではなく、その背後にある素材や職人たちの技術、さらには文化的文脈そのものに大きな経済的価値が見いだされ始めているという点だ。

ゼブラアンドカンパニー代表の阿座上陽平は、こうした動きを「資本の再定義」としてとらえる。文化資本や自然資本といった非財務的な要素が、製品やブランドの価値を支える中核に組み込まれ始めているという。「例えば、お菓子メーカーが始めた酪農事業だけで稼げる利益は、それ単体で見ればほとんど期待できない。むしろ赤字の場合が多く、時間も資金も労力も大きいでしょう。しかし大事なのは、ビジネスのサプライチェーンのなかにそれを置いたときに、ストーリーとしてどう描き直せるか。選んでもらうための“ナラティブ”が経営にとって今後ますます重要になってくる。矛盾するようですが、あえて赤字を出しながら源流に踏み込むのも、経済合理性を突き詰めた結果なのです」。

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文=松﨑美和子 イラストレーション=ニール・ウェブ

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