富裕層の領収書1000万枚を見た税理士

森田貴子
ユナイテッド・パートナーズ会計事務所パートナー富裕層専門税理士。アーサー・アンダーセンなど世界四大会計事務所を経て、2003年現会計事務所起業に参画。これまで100件以上の大型再生案件を税務チームとして担当。富裕層に対する資産管理会社の設立・運営、相続・所得税対策に携わり、実務経験は約30年。著書に『億万長者になるお金の使い方』など。
1. 資産を「PL」ではなく「BS」でとらえる
家計簿は収入と支出、余ったお金といった日々のお金の流れを把握するものだ。だがそれだけでは富は築けない。大切なのは、過去からの蓄積として今自分にどれだけの純資産があるかというBS(バランスシート)思考だ。「家を買ったから資産が増えた」と思いがちだが、住宅ローンを抱えるならそれは同時に負債でもある。資産だけを見るのではなく、資産から負債を引いた純資産に目を向ける。得た収入を使い切らず、再び資産に回す。その繰り返しが複利となり、純資産は雪だるま式に育っていく。お金の流れではなく、残高の変化を意識する。
2. 資産構造を設計し、「見えない自分資産」を意識する
富が続く人の財務シートには共通点がある。スキル、知識、人脈、健康、時間といった「見えない自分資産」が非常に多いことだ。これらはじわじわと自分に蓄積され、長い目で見て糧となるストック支出だ。具体的には、価値ある体験・継続的な学び・体の健康・心の健康・家族・つながり・社会貢献・投資の8つ。不動産や金融商品といった有形資産だけに目を向けがちだが、お手本とした富裕層はこの8つすべてに意識的にお金を使っている。見えないからこそ意識して設計する。それが富を長く続かせる土台になる。
3. 「未来の健康」という資本に投資する
富裕層の方々の領収書を見ると、富が続く人の支出には共通した痕跡が見える。数十万円のマットレスやオーダーメイドの枕、足に合った靴やインソール、そして2、3カ月おきの歯のクリーニング。一見地味だが、これらはすべて「未来の自分への投資」だ。心身の健康チェックやメンテナンスなど、「不調になる前に手を打つ」のが基本姿勢。睡眠の質が思考力と判断力を整え、体が動き続けることが長期的な生産性を支える。派手な消費より、静かで継続的な健康投資を選ぶ。その習慣が、富を生み出す土台をつくっている。
4. 「専門家」を答え合わせのパートナーにする
自身の判断の精度を高めるために専門家を活用する。重要なのは丸投げすることではなく、自分なりに考え抜いた仮説を、信頼できるプロがもつ一次情報と照らし合わせる。最終責任は自分にあるという自覚があってはじめて、専門家は本来の力を発揮するパートナーになる。医師に専門領域があるように、税務・法務・資産運用にもそれぞれ異なる専門家がいる。各分野で「誰が真のプロか」を見極める選別眼をもつこと。その目を磨き続けることが、資産を守るうえで欠かせない第一歩になる。
5. 計算を超えた「人情」を循環させる
自らの成功を「自分ひとり」で完結させない。雇用を生み、静かに寄付を続け、美術館や母校など文化・教育を支える。ただそれは、資産形成の延長にある戦略ではない。タイパやコスパでは測れない、「自分がこれをやりたいからやる」という純粋な動機から来ている。お金の使い方は、その人の価値観と歩んできた人生をそのまま映し出す。計算を超えた人情として富を循環させる積み重ねが、結果として世代を超えた信頼と、資産の持続につながっている。
6. 戦略的に「レスを寝かせる」
「即レスが信頼をつくる」というのがビジネスの基本だが、重要な判断ほど、あえて一晩寝かせるほうが、結果として質が上がり失敗も減る。焦って返した言葉が、後から自分を縛ることがある。寝かせることは怠慢ではなく、思考を深める戦略だ。チャットツールが即レスを加速させる今だからこそ、意図的に時間をおく習慣が重要になる。時間に価値を置く富裕層ほど、いたずらに相手の時間を奪う人を嫌う傾向にある。一時の速さより、仕事の質と長期的な信頼をつくり出すことを優先する。
7. 「ホームラン」を狙わず、愚直に打席に立ち続ける
一発ホームランを狙う思考は、多くの場合失敗の入り口になる。コツコツやり続けることは古く見えるかもしれない。それでも原理原則は、時代が変わっても基本的に同じだ。しばらく続けていると、点と点がつながって見えるステージがやってくる。スキルも人脈も信頼も、長い時間軸のなかでしか育たない。全部オリジナルにしようとするとおかしなものが出来上がる。古くから積み上げられてきたもののうえに、少しずつ自分らしさを重ねていく。それが最も確実な道になる。


