リーダーシップ

2026.06.18 13:30

AI時代のリーダーシップ最前線、日本が勝てる最後の強みとは

AI時代の教育とリーダーシップ、評価を「フィードバック」として捉える

美馬のゆり|学習科学者、公立はこだて未来大学名誉教授

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私は学習環境デザイナー、学習科学者として、21世紀の初等教育から高等教育、さらには生涯学習までを視野に入れ、学習環境を設計するためのデザイン原則を導き出すことを目的に研究を行っています。そのなかで、AIの進化に対して強く懸念しているのは、人が自ら考える機会を失い、思考そのものをAIに委ねてしまうことです。だからこそ今、学習や教育のあり方があらためて問われているのです。

近年、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスといった効率性を重視する風潮が社会全体に広がっているなか、教育界でも「個別最適化」という言葉が頻繁に語られるようになりました。これは、学習者一人ひとりの理解度や学習速度に応じて教育を最適化するという考え方です。しかしAI時代において、この「最適化」という効率の領域は、AIが得意とするもので、むしろAIに委ねられるようになりつつあります。だとすれば、人間の教育が担うべき役割とは何なのでしょうか。

私は、その問いに対するヒントは「非効率」にあると考えています。人は、人生において回り道や寄り道をするからこそ、異なる価値観をもつさまざまな人に出会います。そうした偶然の出会いを通じて学び、思考の幅を広げていく。私は、こうしたプロセスこそが教育の本質ではないかと考えています。だからこそ、異なる意見や視点に出合う機会をいかに教育のなかに設計するかが重要になります。

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この視点は、AI時代のリーダーシップにも直結します。アルゴリズムや人間自身の認知傾向によってエコーチェンバーが生まれやすい現代において、そこから意識的に抜け出す努力が不可欠です。リーダーは、自ら異なる意見や立場をもつ人々や、異質なコミュニティに身を置き、多様な視点に触れ続ける必要があると思います。

台湾の初代デジタル大臣であるオードリー・タン氏が提唱する「プルラリティ(plural i ty)」という概念は、単一の声に収束するのではなく、多様な声が併存する状態そのものを維持することが重要だという思想です。その前提に立てば、AI時代のリーダーとは、多様な価値観の中で意思決定における「重みづけ」を設計する存在だと言えるでしょう。

では、その選ばれる価値はどこから生まれるのでしょうか。その源泉は常に「人」にあります。AIは価値を生成するための強力な補助線にはなりえても、価値そのものの起点ではありません。

また、AIは従来のテクノロジーよりも動的に進化し続ける存在です。そのため、AI時代の組織に求められるのは、変化を前提として人が学び続けられる環境をつくり、試行錯誤や失敗を許容する文化を育てることです。

この議論を進めると、必ず「評価」の問題に行き着きます。 私は、評価を「ジャッジメント」ではなく「フィードバック」としてとらえるべきだと考えています。それは次に進むためのコミュニケーションであり、未来に向けた対話の起点です。その対話を成立させる前提として、これからの時代に最も重要になるのが「問いを見つける力」。問いを立て、対話を促し、そのプロセスを行動へとつなげる。そしてその循環を回し続ける存在こそが、AI時代のリーダーなのです。

みま・のゆり◎公立はこだて未来大学 名誉教授、日本学術会議会員。Humane Learning Designを提唱し、AI時代の教育と人材育成を研究。著書に『AIの時代を生きる』など。

総 評

「人間らしくあっていい」不完全さを面白がる

日本のデジタル普及をリードしてきた元官僚、世界から日本を見る実業家、さらに設計や構想の力で社会をつくり出すデザイナーや教育者。異なる業界で活躍する4人にAI時代のリーダーシップを伺ったが、出てきた回答は同じ方向を示していた。人間は人間らしくあっていい、そして、その不完全さを面白がるという肯定。AIはこれまでの資本主義に染まりきった自身から本来の姿に戻す禊のような役割なのかもしれない(谷本)。

文=フォーブス ジャパン編集部 イラストレーション=ブラチスラフ・ミレンコビッチ

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