「休憩時間の確保」も非常に重要だ。例えばASDの特性がある人の場合、過集中の状態では作業が捗る感覚を得られる一方、体への負担は知らず知らずのうちに蓄積してしまう。防止策として、1時間に1回程度の休憩を予めスケジュールに組み込んでおくとよいだろう。
他にも、コミュニケーション面での環境整備も重要だ。指示系統の1本化や5W1Hに則った明確な指示、指示内容を文書やチャットなどのテキストで伝達することは、その典型例だ。
また、雑談や食事を一緒にすることも、人によっては負担になる。社会的な文脈の読み取りが苦手な特性がある場合には、会話やその場に合わせた振る舞いをするために多くのエネルギーが必要になるからだ。「雑談やランチの誘いを断ること=社交的ではない」と捉える人がいるかもしれないが、そうした背景を理解しておく必要がある。インターンシップや面談などの場で、本人に意向を確認しておくことが大切だ。
さらに、マネージャーとの定期的な1on1面談も有効である。発達特性がある人の中には、要望を伝えるのが難しいなど、問題を抱え込みやすいタイプがいる。例えば隔週15分程度でもよいので個別に面談ができると、心理的安全性が保たれ、就労が安定しやすい。時には直属のマネージャーには伝えづらいことが出てくる場合もあるので、本人が直接人事と相談できる体制も、整備しておくとよい。
発達障害のための環境整備がもたらす「予期せぬ恩恵」
さて、ここまで述べてきた発達障害がある人が活躍するための環境整備について、いくつかのポイントは自分たちにも当てはまる、または必要だと感じた方は多いのではないだろうか。
大半の組織では、定型発達の人々を前提に設計された就労環境が当たり前になっており、それに気づかない人も多い。用意された環境に適応できた人しか残らないし、適応できなかった人は、能力がない、努力が足りないと片付けられてしまいがちだからだ。
一方で、脳・神経の発達特性がそれぞれ違うという前提に立ち、それに合わせて環境を選択できるようになれば、多様な人材が活躍できる可能性が高まる。そう考えると、発達障害がある人や発達特性が強い人は、組織に対して働きやすさを問い直し、より多様な人材が活躍できる場へと転換するチャンスをもたらす貴重な存在だと言える。
ニューロダイバーシティに関する先進的な取り組みを行うある国内企業からは、次のようなコメントをもらった。「発達障害がある人に活躍してもらうために、組織全体で指示を明確にしたり、さまざまな人が作業しやすいように業務を再設計したりした。しかしよく考えればそれらは、発達障害がある人に限らず、全ての社員に必要なことだった」
発達障害がある人が活躍できる環境を整備することは、これまで企業が実践してきた女性の活躍推進や介護と仕事の両立サポートと、大きくは変わらない。なぜなら、インクルージョンの本質は、特定の誰かを優遇することではなく、多様な人材が能力を発揮することで、組織や社会の発展を促すことにあるからだ。


