サイエンス

2026.06.15 18:00

なぜヒトの声には個性があるのか? 喉から消えた「膜」の正体

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2020年に『Nature』で発表された研究で、遺伝学研究者は、発話に関わるさまざまな遺伝子の制御変化を追跡している。具体的には、胎児の発生や体の成長過程において、特定の遺伝子群のスイッチをコントロールするNFIXやSOX9のほか、FOXP2(発話に関わる神経経路だけでなく、声道の物理的構造も形作る、いわゆる「言語遺伝子」)といったものだ。こうした「垂直方向と水平方向の長さが一致する構造」が出現したのは、進化の過程でネアンデルタール人とデニソワ人が分岐した後であることが示唆されている。

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私たちが発する声は、地質学(地球の歴史)的に言うと「ごく最近」の発明であり、解剖学的に言うと、現代的なホモ・サピエンスのDNAのみに刻まれているのだ。私たちは誰もが適切な声道を持っている。しかし、あなたの声道(から響く声)と私のものとでは、何が違うのだろうか。

骨格がヒトの声に及ぼす意外な影響

声帯で生まれた音は、声道を通って上へと向かうが、声道は単なる音の通り道ではない。ここで、必要な音は増幅され、不要な音はフィルタリングされる。

咽頭、口腔、鼻腔は、一連の共鳴腔としての役割を担い、それぞれが特定の周波数を、強めたり弱めたりしている。こうしたプロセスを生き延び、最大のエネルギー強度で口から発せられる周波数を「フォルマント」という。そしてこのフォルマントこそが、ほかのどの音響特性よりも声に個性を与え、認識し得る声へと仕立て上げている要素なのだ。

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個々のフォルマントは、声道が持つ独特の形状によって決まる:

・声道の長さ
・声道の容積
・硬口蓋の湾曲度
・咽頭の深さ
・頭蓋底と脊椎が接する角度

上記の値(頭蓋底の角度や、上顎のくぼみの深さ、咽頭腔の容量)は、人によって構造的に差があり、それがほんのわずかに違うだけで、フォルマントの特徴に知覚可能な変化をもたらす。

発声器官は、頭部の中に組み込まれたパイプオルガンのようなものだと考えてほしい。パイプオルガンはみな、使われている基本的な素材が同じで、同一の音響原理に従っている。ところが、何世紀にもわたって製造されてきたにもかかわらず、音色がまったく同じものは一つとして存在しない。

あなたの発声器官は、あなた自身の遺伝子、言い換えれば祖先から受け継いだ、特有の骨格成長過程によって形づくられている。その発声器官から生まれる共鳴音は文字通り、あなた自身の体の造りが奏でる音なのだ。

体が奏でる音には、よく知られている全体的な傾向がある。男性は、声道が女性より長いので、生み出されるフォルマント周波数は女性より低い。音域に一般的な男女差があるのはそのためだ。

男女の差よりもさらに興味深いのは、個々の人間における微妙な違いだ。同じ性別であっても、声には個人差があり、一つ一つの声が識別可能な音響的個性を持つ。身長と声道の長さがまったく同じ男性が2人いたとしても、硬口蓋の湾曲度や副鼻腔の形状が異なり、頭蓋骨の構造に微妙な差異があれば、発せられる声も変わってくる。

あなたの声は、単に体から生み出されるものではない。ほかの誰でもない、あなた特有の体から生み出されるものなのだ。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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