ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ征服の試みは挫折しようとしている。人口がはるかに少ないウクライナを消耗戦によって疲弊させようとする同大統領の戦略は、行き詰まりを見せている。ロシアは毎月、新たに徴兵された兵士の数を上回る規模の兵力を失っている。一方、ウクライナはほぼ2年ぶりに、失う領土より奪還する領土の方が多くなっている。同国は毎週のように進化する無人機(ドローン)技術やミサイル能力により、ロシアをしのぎつつある。ウクライナ軍はロシア国内の標的を攻撃し、補給線を断ち切り、首都モスクワの石油施設を次々と破壊している。これに対し、プーチン大統領はウクライナの首都キーウで民間人を攻撃することで反撃に出ている。
さらに不吉な兆候は、ロシアがウクライナ国外にも紛争を拡大させる可能性があることだ。ロシアはリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国に対し、脅威を投げかけている。これには言葉による攻撃やサイバー攻撃が含まれ、最近ではリトアニアに向けて無人機を発射するといった行動も見られる。ロシア政府は将来的に軍事攻撃の口実として利用されかねない虚偽の告発を行っている。
プーチン大統領は、1938年にドイツのアドルフ・ヒトラーがチェコスロバキアに対して用いた手口を再び持ち出すかもしれない。すなわち、ドイツ系住民が現地で苦境に立たされているという主張だ。プーチン大統領は、ロシア系住民が迫害されているため、現地から救出するために軍隊を派遣せざるを得ないと主張するだろう。ラトビアでは人口の約25%、エストニアでは約20%をロシア系住民が占めている。だが、どんな口実でも構わないのだ。
プーチン大統領は欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)を分裂させ、ロシアを欧州の支配的な勢力にしたいと考えている。ウクライナの独立に反対し、米国に敵対的な極右勢力が、特にフランスとドイツで勢力を拡大していることが、プーチン大統領にとって追い風となっている。
もし同大統領が実際にバルト三国のいずれかに対して軍事行動に出た場合、攻撃された国がNATOに加盟していても、米国のドナルド・トランプ大統領はロシアとの戦争に踏み切るだろうか? あるいは、プーチン大統領がスウェーデン、フィンランド、デンマークに属するバルト海の島を1つか2つ占領したとしても、トランプ大統領は軍事行動に出るだろうか?
プーチン大統領は、トランプ大統領が尻込みすると計算しているのかもしれない。何しろ、欧州が現実的な攻撃の可能性に直面しているこの時期に、米軍が部隊や軍事装備を縮小させたことは、極めて憂慮すべき信号を送ったことになる。米軍の削減は、防衛費増額を促すというNATOの友好的な働きかけをはるかに超えている。米国はNATOに対し、これまで攻撃の脅威が発生した場合に提供してきた軍事装備の規模を最大50%削減する方針を伝えている。これは将来の混乱を招くことになるだろう。
1950年、当時のディーン・アチソン米国務長官は、米国の安全保障上極めて重要と見なす地域から韓国を除外すると演説した。この好機を察したソビエト連邦は、北朝鮮に対し韓国への攻撃を容認した。その結果、韓国を守るために3万8000人の米兵が命を落とし、200万人以上の韓国人が犠牲となった。
残念ながら、都合の悪い約束をこれまで一度も守ったことのない過激なテロリスト政権であるイラン政府と取引をしようとする米国の姿勢は、敵対勢力を抑止することにはならないだろう。
米国はウクライナへの支援を拡大し、欧州の同盟国との連携を強化すべきだ。こうした取り組みは、中国をけん制するための適切な措置を講じることを妨げるものではない。唯一の真の障害は、米国と自由主義諸国の安全のために必要なことを実行しようとする意志の欠如だ。



