生産性だけが正義なのか ベルギーで気づいた、日本人の“働き方OS”

私が二拠点生活を続けるベルギーの街並み

私が二拠点生活を続けるベルギーの街並み

ベルギーでの留学・生活経験を通じて見えてきた、日本人の「働き方OS」とは何か。ビジネス書編集者としての経験を持ち、現在は日本企業と海外企業の橋渡しに携わる雨宮百子氏が、自身の体験をもとに考察する。


「グローバル人材の育成」を掲げ、英語研修や外国籍採用に躍起になる日本企業は多い。しかし、どれだけ流暢な英語を話せても、現場からは「なぜか商談が噛み合わない」「プロジェクトが頓挫する」という嘆きが絶えない。 背景には、言語や予算だけでは説明できない要因がある。私たちが無意識に抱える「生産性の呪縛」という名の評価システム(OS)そのものを、相手のフィールドにそのままもち込もうとしていることにある。 

こうした問題意識は、私だけの実感ではない。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した2025年の世界競争力データが、その冷酷な現実を証明している。

評価対象となった世界69カ国のなかで、日本は総合35位。足を引っ張っているものの1つに「ビジネスの効率性」がある。私たちのマインドセットを示す「態度と価値観」の項目は56位。さらに、組織の俊敏性や意思決定に直結する「経営実践」にいたっては、65位と世界最下位レベルに沈んでいる。

技術も予算も世界トップレベルなのに、それらを動かす人間の「OS(前提・価値観・経営実践)」が旧世代のままであるがゆえに、システムエラーを起こして苦戦している。では、なぜ私たちは、これほど致命的なOSのズレに気づくことができないのだろうか。 

「グローバル」という言葉が思考を停止させる

日本のビジネス現場では「グローバルスタンダード」や「欧米では」という表現が頻繁に使われる。しかし、この言葉は思考を整理しているようで、実は思考を止めている。

「グローバル」とは、一体どこのことを指しているのだろうか。

私が二拠点生活をしているベルギーで最初に直面したのは、日本で語られる「欧米の価値観」の多くが、実質的には「アメリカ(特にシリコンバレー)」を指していたという事実だった。「効率を追求する」「成果を数値化する」「スピードを重視する」といった哲学は、少なくとも私が暮らしたベルギーでは当たり前ではなかった。

ベルギーでは多くの人が夕方には職場を後にし、残業が評価につながる空気は皆無に等しい。ビジネスの場面を除き、初対面で職業を聞かれることもほぼない。「肩書きで相手を測る」という発想が、文化として薄いのだ。ある現地の友人に日本ではプライベートの初対面の場などでも職業や仕事の話がでることが多いと話した時のことだ。

「それって、疲れない?」

即座に答えられなかった。疲れるかどうかすら、考えたことがなかったからだ。
これが「OSのズレ」である。どちらが正しいかという問題ではない。前提が違う。そしてこのズレは、相手を「グローバル」や「欧米」とひとまとめにした瞬間に見えなくなり、目の前にいる具体的な人間のOSには永遠に気づけなくなってしまう。

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文・写真=雨宮百子

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