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2026.06.04 12:15

完璧な戦略なのに、社員が動かない──組織に共感を生む「WHYの物語」の紡ぎ方

folyphoto - stock.adobe.com

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「戦略を語ることには慣れている。でも、社員の心に火をつける言葉がわからない。変革の必要性を訴えても、人が動かない感覚がある」

ある日、クライアントである経営者の方が、コーチングの場でそう語りました。

その方はIT業界に長くお勤めの50代で、2カ月ほど前、社長に就任したばかり。現在の会社には中途入社し、特定の事業領域で部長を長く務め、圧倒的な成果を残してきた方です。市場も商品も熟知しているため、自ら戦略を描き、意思決定を行う。そして周囲に戦略を語り、実行を推進する。リーダーとして、ロジックで組織を動かすことに長けていました。

しかし、社長になって以降、それが上手くいかなくなったと言います。

AIによる産業構造の変化、既存事業の限界、商材ポートフォリオや仕事の進め方を変革する必要性──「社員へのメッセージが間違っているとは思わない」とクライアントは語りつつも、解決の糸口がつかめず、思い悩んでいました。

社員が知りたいのは、KPIでなく「WHY」

鈴木:変革の必要性を、これまで通りロジックで伝えたら、社員はどう反応しそうですか?

クライアント:頭では総論として理解してくれると思います。でも、心と身体がついてこない気がします。深いところでは、同意できない状態というのでしょうか。

「変革が必要なのはわかる。しかし、現場にはそれぞれ事情があり、そんなに簡単には変えられない」という感覚があるのだと思います。


市場環境に競争優位性、財務指標、株主期待──経営側は事実やデータを用いて、変革の必要性を社員に説明します。そうして描かれた戦略は論理的で、正しいものです。しかし、人は正しいという理由だけで、動くわけではありません。

こと組織変革については、単なる業務改善ではなく、組織がこれまで積み重ねてきた成功体験や個々人の役割・存在意義そのものを書き換える営みでもあります。

「変わらなければいけない」ことは理解できる。しかし、「本当に変わりたい」とは思えない。社員の心の中で起きているのは、そうした葛藤です。

鈴木:もし社長が社員のひとりだったら、今のご自身のスピーチを聞いてどう感じるでしょうか?

クライアント:理解はできると思います。……でも正直、心に火はつかないと思います。

鈴木:それはなぜですか?

クライアント:自分ごとにできていないというか……共感できていないというか。

今、話しているうちに気づいたんですが、私が社員に向けて語りかけるとき、共感を生むための「WHY」の要素が決定的に欠けているのだと思います。

ROEを高める、時価総額を上げる、利益率を改善する──そういった戦略の説明はしっかりできています。ですが、それを聞いたところで社員は「で、なぜそれをやるんですか?」と思うでしょう。特に、管理職以下の社員はその傾向が強い気がします。

もちろん、面と向かっては言ってきません。「企業だから利益を出すのはわかる」「投資家対応も必要なんだろう」と思う一方で、「それって何につながるんだろう」「そもそも、私たちは何のために存在しているんだろう」と感じている気がします。


近年、パーパスやビジョンといった言葉が社会に浸透し、多くの企業が思想を掲げるようになりました。しかし、いざ社内のコミュニケーションに目を向けてみると、戦略やKPIは頻繁に語られる一方で、その根源となる企業や事業の存在意義、すなわち「WHY」が語られる機会は驚くほど少ないように感じます。

しかし、クライアントが気づいたように、変革に向け社員の心に火をつけようとしたとき、経営者が語り続けるべきことは、この「WHY」なのです。

そして、「WHY」をただ説明文として語るだけでは、社員の共感は得られません。

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文=鈴木義幸

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