アート

2026.06.02 18:45

ロバート・ロンゴの個展で見る、完璧な大谷翔平と歪んだアメリカ

Pace 東京で6月17日まで、ロバート・ロンゴによる個展「Angels of the Maelstrom」が開催されている

Pace 東京で6月17日まで、ロバート・ロンゴによる個展「Angels of the Maelstrom」が開催されている

遠目にも、近くで見ても、写真と見紛うほど精巧な木炭ドローイング。ロバート・ロンゴの展覧会「Angels of the Maelstrom」が6月17日まで、Pace 東京で開催されている。

日本で最後の個展から約30年ぶりとなる本展に並ぶのは、細部まで描き込まれた木炭ドローイングや彫刻の数々。花や山など自然を題材にしたもののほか、昨今の社会情勢を反映するもの、なかでも“傷ついた星条旗”など、アメリカをテーマにしたものも多い。

ロンゴは写真を模写して作品を描くが、参照する写真は、ときに実在のものでなく、複数の素材から彼が思う理想のイメージをつくり、それをドローイングしていく。そんな「完璧さ」にこだわるロンゴが、「彼は美しくパーフェクトだ」というのが、ドジャースの大谷翔平だ。バットを握る姿が、本展のアイコニックな作品として展示されている。

若いころから社会的・政治的課題に影響を受け、作品にも描いてきた彼は今どのように社会を見つめながら創作を続けているのか。来日も実に30年ぶりとなったアーティストに聞いた。

──まず、大谷翔平の作品について。なぜ彼を描こうと思われたのですか? 

野球はアメリカ人にとって最大の娯楽であり、最も重要なスポーツです。そのトップに立っているのが「日本人選手」であるという事実が非常に興味深い。アメリカの文化と日本人のベースボールプレイヤーの関係性を表す象徴として、彼を選びました。また、純粋に彼の姿は美しく、パーフェクトな野球選手であるという点も、対象として選んだ理由です。

来日は30年ぶりになりますが、日本の文化は本当に素晴らしいと感じています。特に細部へのこだわりや、歴史への敬意ですね。昨日も茶道のお茶会に参加したのですが、すべての動作が丁寧に行われ、瞑想に近い雰囲気がありました。こうした「細部への気配り」は、アメリカには存在しないものです。

 ──その横に展示された3作(ケネディ夫妻、ビッグ・ボーイの彫刻、傷ついた星条旗)には、近年のアメリカ政治への問題意識を感じます。現状をどのように思われていますか? 国を出たいと思ったことはありますか?

各政党が民衆の憎悪を増幅させるような政治を行っているのが問題ですね。今のアメリカを見ていると、アメリカ人であること自体が恥ずかしいとすら感じています。多様性のある民主主義の象徴であり「大きな希望」だったかつての姿は、いまや失われてしまいました。

実際に国を去ることは考えたことがあり、妻とフランスへの移住を話し合ったこともあります。しかし、この状況を何とかするために「アメリカに残る」ことこそが重要だと思っています。それに、アメリカで起きている分断や問題は、世界中で形を変えて起きています。日本でも女性が首相に就任しましたが、その人物は非常に右派的であるとも耳にしています。

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文=鈴木奈央 写真=Pace 東京

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