しかし、この中国のビジョンは無制約ではない。第一に、グローバル・サウス諸国は中国に全面的に依存することを望んでいない。彼らは米中間の競争を利用し、ヘッジ(両にらみ外交)を通じて自国利益や「主体性」の確保を追求してきた。第二に、中国自身も軍事・経済双方にリソース制約を抱えており、米国式のグローバル覇権を目指す能力も意思ももたない。むしろ、中国が外に出るとき往々に直面するのは、現地からの要求や抵抗、または昨今、イランと湾岸諸国の間で直面しているような多国間での板挟みである。こうした状況のなかで広がるのは、「不確実性が高まる米国よりは相対的にましな存在としての中国」という相対的な評価だ。
そのなかで、日本は、単に大国間の選択を迫られるのではなく、流動化する国際秩序でも主体的に生存・発展を追求しなければならない。不確実性が高まる米国と、中国の相対的安定性が対比されるなかで、グローバル・サウスには、二大国のほかの頼れるパートナーがこれまで以上に必要とされている。日本に求められるのは、グローバル・サウスとの関係を含めた多層的な関与を通じ、安定的な国際秩序を維持・再建しつつ、拡大する世界の発展需要を自国の成長へと結びつける戦略的関与である。
土居健市◎地経学研究所中国グループ主任研究員。北京大学公共政策学博士。専門は中国の地経学(開発金融、新興技術等)とグローバル・ガバナンス。東京大学公共政策大学院修了後、08年JICA入構。途上国での投融資業務や中国事務所での日中協力事業等に従事。18年より博士留学、22年取得。24年8月より現職。早稲田大学招聘研究員を兼務。


