「伊勢参り」になぞらえた、地域丸ごとDX構想

神山のビジョンは、自社のDXにとどまらない。目標は「伊勢志摩を、地方中小企業のDXの聖地にする」ことだ。2024年10月、IXホールディングスからスピンアウトする形で「IXデジタル」を設立。マスヤグループが自社で実践してきたDXを、地域の他社に提供するための専門会社だ。
「江戸時代、人々は伊勢参りのためにお金を積立てました。伊勢神宮への参拝はもちろんだが、もう一つの旅の目的は、伊勢の文化を学んで持ち帰ることでした。電話さえなかった時代に、伊勢が情報交換の場として機能していたのです。
もし、伊勢の中小企業が、自社のDXをお見せしますと言えば、企業研修や視察に来やすくなります。今の時代、伊勢参りだけでは会社は動けないかもしれませんが、現場のDXが見られるとなれば、研修旅行で来てくれるかもしれません。そうすれば地域にもお金が落ちます」。
神山は、単なるDXにとどまらず、地域の観光・経済活性化とも結びついた複合的な地域再生モデルを思い描く。ただし、「都会の成功モデルをそのまま地方に適用しても機能しない」と強調する。「遅れている」のではなく、そもそもの「構造が異なる」のだという。

「都会の大企業は人材も情報も豊富で、契約という法的枠組を基盤にビジネスが動きます。一方、地方の中小企業は人材も限られ、最新のIT情報にもアクセスしにくい。しかし、圧倒的に異なる点があります。それが“人と人とのつながりの濃さ”です。都会では、知り合いでもない企業のトップ同士が、地方では同級生であり、長年の付き合いがあります。契約ではなく「信頼」で動く。ドライな都会とは根本的に異なる、信頼ベースのネットワークは、地方DXの武器になり得ると確信しています。“あの会社がやってうまくいった”という口コミは瞬く間に広がります。昔ながらの秘密主義を打破し、“いいものはみんなで使おう”というオープンな文化を伊勢志摩に根付かせることを目指しています」。
ただし、地方DXの普及を阻む壁は少なくない。SaaSやソフトウェアの多くは、都市部の大企業を想定して設計されており、価格設定はもちろん、最低5ライセンスからといった契約形態も、数名のデジタル担当者しかいない中小企業の実情には合わない。神山は、シムトップス社会長の水野貴司にこの課題を持ちかけ、地方企業が導入しやすい「地域価格」と契約体系を備えた、地域版ライセンスの設計に共に着手している。
マスヤグループが培ってきた電子化のノウハウを地域価格で導入支援。代わりに事例公開や工場見学への協力を依頼する。これにより導入企業にとっては低コストでDXが実現でき、地域全体の電子化レベルが底上げされる。こうした取り組みにより、都市部から視察や研修などで人が訪れれば地域経済への波及効果も生まれる。これが神山が進める「地域版DXエコシステム」だ。
「地方の中小企業が『後継者不足、人手不足、デジタル化の遅れ』という共通の課題を抱えるなか、伊勢志摩から発信されるこのモデルは、全国に横展開が可能だと考えています」。かつての「おかげ参り」は、伊勢から土産物だけでなく、人や知恵を自分の村に持ち帰り、地域を豊かにした。「伊勢に行けばDXのヒントを持ち帰ることができる」。神山が目指すのは、“現代版おかげ参り”だ。



