現場の実情に根差した、地道なDX
DXには、デジタイゼーション(電子化)→デジタライゼーション(業務改革)→デジタルトランスフォーメーション(価値創出)の3段階があるとされる。
神山は、「ファミリータイプのネット回線で動いていた会社が、一気にDXの第3段階はハードルが高い。まずは電子化から。これを行わなければ、AI時代に生き残れない」と、紙の帳票の電子化に着手する。
工場では1日に150枚もの紙の日報が発生し、担当者が収集、システム入力していた。記入漏れや読めない文字の頻出、手動での計算ミスも日常茶飯事だった。神山は、前職で活用していた「kintone」の導入を試みたが、「書式がまったく違う。こんなの難しくてできない」と、現場から大きな反発を受けた。そこで採用したのがシムトップス社の「i-Reporter」だ。紙のフォーマットをそのままiPadで再現できるため、現場の抵抗を最低限に抑えられた。結果、年間3万枚の紙を削減し、自動計算機能により計算ミスもなくなった。

生産現場のIoTの取り組みも、神山ならではのやり方が注目された。小型コンピューターと赤外線センサーを組み合わせた製品カウントシステムを、社員自らが自作したのだ。
「マスヤは1日に何箱のせんべいを作っているかわからなかったのです。製品を詰めた段ボール箱は外部委託の物流会社がカウントし、その数が“1日の出来高”とされていました。数え間違いがあっても確認する術がなく、経験と勘に頼った生産管理が続いていました。まず、IoT勉強会を社内で開催。NEC出身の後輩を外部講師として招き、勉強会メンバーと秋葉原に行って、好きなセンサーを会社負担で購入。実践的に学んでもらいました」。
その結果、生まれたのがこのお手製のシステムだ。箱の通過数をリアルタイムでカウントし、Slackに自動通知。生産ダッシュボードにより異常の傾向も可視化され、製造現場は「データ」による管理に変わった。

品質管理の領域では、東京のスタートアップ企業・フューチャースタンダードとのオープンイノベーションに取り組む。従来映像解析AIに使用するカメラは1台100万円以上という高価格帯が主流だった。しかし5万円のカメラとAIを組み合わせることで、同等の品質管理を実現させた。
おにぎりせんべいは、三角形の形をした醤油味のせんべいで、表面には千切りした海苔がランダムに貼られているのが特徴だ。かつては海苔を付けた後の完成品を検査していたが、海苔のランダムな付着パターンが複雑すぎて、AIでの判断が困難だった。海苔がおいしさを増すものでありながら、AIを混乱させてしまうのだ。そこで海苔を振る前の生地の段階で、形状や温度ムラなどの異常を検出するように切り替えた。この段階で不良を発見できれば、海苔も無駄にならない。
さらに、せんべいでもっとも重要な生地の水分量を、瞬時に測定できるシステムも導入した。従来は測定結果が出るまで、2〜3分かかり、測定結果を待つ間にもラインが進んでしまう。結果、不良品を廃棄していたが、このロスを解消した。
「弊社の若手2名をフューチャースタンダードに出向してもらい、伊勢のゆっくりとした時間ではなく、東京のスタートアップのスピード感を体験してもらいました。給料以外は先方持ちという好条件で、スタートアップならではのコアな技術ともいえる、最先端映像解析AI技術を惜しみなく伝授してもらったのです」。
電子化、IoT、品質管理など一連の取り組みが、外部からも高く評価され、2024年経済産業省が主導する「DXセレクション」に選定された。さらに同年秋には「関西DXアワード」の中堅中小企業部門で金賞を受賞。神山が目指していた「デジタルを使って現場を笑顔にする」というビジョンが形となった。


