知能を明確に定義するのは難しい。大半の人は知能がどのようなものか大まかなイメージは持っているが、それを正確に定義しようとすると往々にして予想以上に難しいことに気づく。それは知能が1つの固定された特性ではなく、1回で測定・定量化できないからだ。実際には知能とは状況に応じてさまざまな形で機能する複数の能力の集合体だ。
知能には長年かけて蓄積してきた知識に根差すものもあれば、その場でどのように情報を処理するかに依存するものもある。また、経験によって形成されるものもあれば、手本となるものがない未知の状況に置かれたときに発揮されるものもある。
その中でも最も誤解されている知能の1つが流動性知能だ。これは、論理的に考え、パターンを認識し、まったく新しい状況下で問題を解決する能力のことだ。暗記したり練習したりしたこととは無関係に機能する。だがその重要性にもかかわらず、流動性知能は知能全体の中では注意を向けられなかったり過小評価されたりすることが多い。
心理学研究によると、流動性知能を理解することは日常生活の中での思考や学び、適応に有用な視点を与えてくれる。
流動性知能とは
専門誌『Applied Neuropsychology: Child』に2017年に掲載されたレビューでは、流動性知能とは新しい問題に対して推論する能力と定義している。これには、パターンを見つけ、関連性を見出し、その場の状況に応じて思考を適応させる能力が含まれる。明確な解決策が存在しないときに頼る精神的な柔軟性のことだ。
これに対する概念が結晶性知能であり、生涯を通じて蓄積される知識や技能を反映したものだ。語彙力や専門知識、習得した戦略といった要素が含まれ、これらは通常、実体験や教育によって洗練される。
結晶性知能と流動性知能の違いを分かりやすくイメージするには、よくある職業を例に考えるといい。例えば、何十年も厨房で働いてきたシェフを想像してみてほしい。ベテランのシェフは長年の経験と蓄積された知識を駆使することで、レシピを確認しなくても複雑な料理を難なく作ることができる。これが結晶性知能の働きだ。
次に、初めて犯罪現場に立ち会う刑事を想像してみてほしい。刑事は事件について不完全な情報しか持っていない。刑事の仕事はこれまで見たことのない手掛かりを解釈し、新たな情報をもとに仮説を立て、詳細が新たに判明するたびに思考を修正し続けることだ。これは流動性知能に大きく依存するプロセスだ。
流動性知能と結晶性知能ともに重要なものであり、実際、相乗的に作用することが多い。それでも「賢い」と聞いて人が思い浮かべるのは通常、結晶性知能のほうだ。教育制度においても、正解や保持された知識が評価されるため、流動性知能より結晶性知能の方が重視されがちだ。同様に、職業上の成功も一般的には専門知識や経験と結び付いている。
こうした理由から、知能は考え方ではなく知っていることと結び付けられることが多い。また、流動性知能は明確なルールが存在しない不確実な状況、つまり測定がはるかに難しく、目に見えにくい状況で発揮されるため、その重要性は十分に認識されていない。



