手と手首についても同様に、驚きの物語がある。2020年に『Saudi Medical Journal』に掲載された放射線学の研究では、子どもの手と手首を撮影したX線写真279枚を分析したところ、手根骨(手首にある骨の総称)8個がみな、誕生時には完全に軟骨性であることが明らかになったのだ。
骨化はまず、生後1年以内に、有頭骨と有鈎骨から始まる。次に、幼少期の中頃までに、三角骨、月状骨、舟状骨、大菱形骨、小菱形骨と順次進み、9歳から12歳までに豆状骨が骨化し、8個すべてが完了する。拍手の仕方を覚えている途中の幼児の手首は、構造的にはまだ発達中なのだ。
腕と脚の長い骨には、両端に層状の軟骨「骨端軟骨」が存在する(「成長板(growth plate)」とも呼ばれる)。この場所で新しい骨組織が作られることで、骨が縦に伸び、身長が高くなる。
2010年に『Journal of Bone and Mineral Research』に掲載された研究は、この構造を「生きた工場」と表現している。休止していた軟骨組織は、成長ホルモン、IGF-1(インスリン様成長因子1)やエストロゲン、アンドロゲンといった複雑なホルモンネットワークによって、活発な増殖・肥大化・石灰化へと進む。
成長板(骨端軟骨)は、成長している乳幼児や思春期の子どものみに存在する。性的に成熟したら、その軟骨組織は完全に骨に置き換わる。ケガや感染症、ホルモンバランスの乱れなどによって、成長板が早い段階で影響を受けると、四肢の長さに恒久的な悪影響が及ぶリスクがある。こうしたシステムは、実に精密に調整されているのだ。
骨格発達の物語を締めくくるのは鎖骨だ。1998年に『Forensic Science International』に掲載された画期的なCT研究で、鎖骨の内側の骨端(胸骨に近い方の鎖骨の末端)は、融合完了が早くて22歳、あるいは27歳かそれ以降になる人も多いことが明らかになった。
鎖骨は、胎児の骨格ではどの骨よりも真っ先に骨化が始まるが、終わるのは最後だ。要するに人体では、母親の胎内で骨格の形成が始まるが、それを完成させるまで20年以上も費やすわけだ。
ヒトの骨格は、進化の危機に対する解決策だった
これはなぜなのか。理屈の上では、誕生時に完成していてもおかしくない骨格が、未完成のままなのはなぜか。その答えを知るためには、数百万年前の過去へとさかのぼる必要がある。しかも、答えは全身に関係している。
ヒトの系統においては、2つの相反する選択圧がぶつかり合っている。一つ目は二足歩行だ。2本の足で立って効率的に歩くためには、骨盤が再構築されて狭くなることが必要になる。そして、骨盤が狭くなったことで、産道は圧迫された。
二つ目は大脳化。つまり、ヒト属全般で、脳が劇的かつ加速的に成長したことだ。脳が大きくなればなるほど、胎児の頭蓋骨も大きくなり、二足歩行のために幅が狭くなった骨盤とは、構造的に釣り合わなくなった。
この不一致は現在、「産科的なジレンマ」と呼ばれ、多くのエビデンスによって裏付けられている。進化生物学者らの主張によると、相反する要求によって、胎児の脳は、二足歩行に適応した骨盤が機能できる範囲の上限まで大きくなり、ヒト属は妊娠期間を短縮することで解決を図ったのだという。つまり、胎児の頭が大きくなりすぎて産道を通り抜けられなくなる前に、神経学的にも骨格的にも未熟であったとしても、子どもを前倒しで出産することにしたわけだ。


