今年の第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門には日本人監督の作品が3本ノミネートされていた。是枝裕和監督の「箱の中の羊」、濱口竜介監督の「急に具合が悪くなる」、深田浩司監督の「ナギダイアリー」だ。
日本映画が最高賞(パルム・ドール)を争うコンペティション部門に3本同時にノミネートされたのは2001年の第54回(今村昌平監督「赤い橋の下のぬるい水」、是枝裕和監督「DISTANCE /ディスタンス」、青山真治監督「月の沙漠」)以来のこと。
それだけにパルム・ドール受賞への期待も高まっていたが、惜しくも日本映画では、「急に具合が悪くなる」に主演したヴィルジニー・エフィラと岡本多緒がコンペティション部門で最優秀女優賞を受賞したのみに終わった。
作品がノミネートされた3人の監督のなかでは、「箱の中の羊」の是枝監督が2018年に「万引き家族」でパルム・ドールを受賞しており、今回日本人監督として、今村昌平監督に続く2度目の受賞がなるかと話題を集めていた。ちなみに今村監督は1983年に「楢山節考」、1997年に「うなぎ」でパルム・ドールに輝いている。
「万引き家族」以来のオリジナル脚本
残念ながら受賞とはならなかったものの、是枝裕和監督の「箱の中の羊」は、パルム・ドール作品の「万引き家族」と同様に「似非家族」を扱った作品だ。
前者では万引きなどの犯罪で結びつく者どうしが「家族」を形成していたのだが、「箱の中の羊」では優れた学習能力を有するAIが搭載されたロボット(劇中では「ヒューマノイド」)が家族の一員として登場する。
「箱の中の羊」は、「万引き家族」以来8年ぶりの是枝監督自身によるオリジナル脚本で、SF的要素が導入された意欲作となっている。
作品の冒頭は、海辺や住宅地、山野などをドローンがゆったりと飛行するシーンから始まる。それとともに「遠くない未来…」というテロップが流れる。
ドローンはモダンな設計の1軒の邸宅に着地する。この家に住む建築家の甲本音々(綾瀬はるか)のもとに荷物を運んできたのだ。「RE birth Ltd.」という会社から彼女に届いたのは、事件や事故で家族を亡くした遺族に対して、最新型の「ヒューマノイド」を無償でレンタルするという案内だった。
音々の夫は工務店を経営する健介(大悟)だが、2人は2年前に7歳になる一人息子の翔を亡くしていた。説明会に出かけ、音々は人間と変わらぬヒューマノイドを目のあたりにして、甲本家に迎え入れることを熱望、夫の健介はそんな音々に押し切られる形で了承する。
甲本家にやって来たヒューマノイド(桒木里夢)は、まさに翔に生き写しで、しかも最新鋭のAIが搭載されているため、生前のデータをインプットすることでカスタマイズされ、さらなる「進化」を遂げる。つまり「翔」以上に「翔」になるというものだった。
ヒューマノイドに、優しく「おかえり、翔」と声をかける音々。一方、健介は、「パパだよね」という問いかけに、冷ややかに「おじさんと呼ぶように」と答えるのだった。
物語の前半では、音々と健介のヒューマノイドに対する熱量の違いがクローズアップされる。やがて、建築家として多忙な音々の代わりに、ヒューマノイドの「翔」との時間をともにするにつれ、健介は過去の秘められた思いにとらわれていく。
おりしも、近隣で子どもの行方不明事件が相次いでいるというニュースが流れる。2年前に見知らぬ男に声をかけられていたという目撃情報から、翔の死は事故ではなく事件ではないかと健介は確信を強めるのだった。
健介役を演じるのは、漫才コンビ千鳥の大悟。是枝監督には他のジャンルから出演俳優を起用するケースがよくあるのだが、この大吾のキャスティングは意外だった。とはいえ、戸惑いつつヒューマノイドとの距離を測りながら自らの過去に向き合っていくという難役に果敢に挑んでいる。



