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2026.06.19 15:15

ギャンブルからアートへ。極彩色の伝統工芸、エモい『麻雀牌』に若者熱狂の理由

写真提供:カレン・アルバ氏

“ギャンブル”から“現代アート”へ

まずは、「ギャンブル」という麻雀につきまとう負のイメージを払拭することが不可欠だった。アートスタジオをオープンした当初はこのネガティブなイメージに苦しめられた。例えば、麻雀ワークショップを提案した高齢者施設の担当者から「麻雀は賭け事だからそういう支援はいらない」と拒絶されることもあった。まずはこの固定観念を変えなければ何も進まない。カレン氏は麻雀を「現代アート」へと定義し直すことから始めた。

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ここで大きな役割を果たしたのが、50年のキャリアを持つ父の職人技と、カレン氏の現代的なデザインのコラボレーションだ。デザインの大部分は今も、伝統的な絵柄が占めているが、二人はそこに今の香港らしさを取り入れた。観光の街、香港らしい点心やエッグタルト、トラム(路面電車)などをモチーフにした独自のデザインを取り入れ、伝統工芸にこれまでになかった遊び心とアート性を加えた。

注文が多いのは伝統的な図柄の手彫りセットだが、彼らが手がける独自デザインの麻雀牌は、アートコレクターや若者を魅了している。例えば、香港をテーマにしたシリーズはHKD12800(約25万8000円)と決して安くはない。しかしこの価格は、デジタルレーザー刻印と手彫りを組み合わせ、さらに一つひとつ手塗りで仕上げるという気の遠くなるような手仕事と度重なるアップデートを重ねたからこそだ。価格に見合うだけの圧倒的な価値が、そこには詰まっている。

“オープンソース化“で若者に技術継承

さらにカレン氏は、若者を惹きつけるため「デジタル」を使い、技術の「オープンソース化」によって文化を生き残らせることを目指した。

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現代の忙しい若者に「麻雀作りを習得するために弟子入りする」という選択肢はない。そこで、気軽にスキマ時間で麻雀牌を作れる学習・体験システムを開発した。スタジオにはQRコード付きの無料ガイドブックを用意し、オンライン上で15本のオンラインコースを一般公開した。

一方で、定期的に開催されるワークショップには「自分だけの特別なギフト」を作りたい30代以降のDIY好きが殺到し、チケットは毎回完売するほどの人気だ。

麻雀の魅力が、国境を越えて一気に世界へと届く大きなきっかけは皮肉にもコロナだった。

世界的な「おうち時間」への需要をきっかけに、アメリカでは麻雀の人気が急上昇した。もともと欧米では麻雀に偏見がなく、チェスのような「知的な戦略ゲーム」として、またレストランで会話を楽しみながらの「社交ツール」として好意的に受け入れられた。

2024年、アメリカ・ニューヨークの麻雀専門スタジオでワークショップを開催し、大きな反響を得た。この麻雀人気はヨーロッパの国々へも広がりを見せている。2023年に、カレン氏のスタジオがオランダの博物館関係者の目に留まったことから、翌年の展示会を経て、2026年の現地でのワークショップはチケットがあっという間に売り切れた。 

伝統的な図柄こそが正解とされる世界で、各国の文化や風景を刻む「海外シリーズ」の導入は大胆な試みで、父娘の間には「伝統」を巡り意見の衝突もあった。カレン氏は伝統をそのまま守るのではなく、今の時代や海外の人にも届く形に変えていく必要があると、何度も話し合いを重ねていった。その熱意は父の意識にも深い変化をもたらしていく。「自分は工場で働くただの労働者だ」と話していた70代の職人が、世界から尊敬される「一人のアーティスト」としての誇りを取り戻していった。

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取材・構成・文=ベック知子

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