人が食べるより“餌や肥料”に?
魚が減っている原因は複合的だ。戦後の沿岸開発による干潟・藻場の消滅、漁船技術の高度化に管理が追いつかなかった過去、そして近年の温暖化による生息域の変化などが挙げられる。温暖化はよく語られるが、あらゆる減少の直接原因とは言い切れず、問題解決も規模が大きく複雑である。
目を向けるべきは、日本の漁業の歪な構造だ。
提言書では、マイワシの約8割、サバ類の約6割が非食用に利用されていることが示されていた。その多くは養殖用餌料や魚油、農業肥料などになる。身近なタンパク源であるはずの魚が、人が食べるより“餌や肥料”として大量に消費されているのだ。
問題はそれだけではない。例えばマサバやゴマサバは、0歳〜1歳の未成魚段階で集中的に漁獲されている。本来、魚は大きく育つほど繁殖能力が高まり、生態系の回復力も増していく。しかし、育つ前に獲ってしまう状況が恒常化しているため、魚の減少をさらに加速させる悪循環に陥っている。
この問題においては、行政主導による科学的資源管理の強化こそが、現実的かつ有効な打ち手だと考えられる。Chefs for the Blueは今回の提言書で、沿岸漁業の資源管理協定への科学的知見の導入、国内水産バリューチェーンの経済規模の可視化、外食・観光産業との政策連携を求めた。
実際には、縦割り行政の壁、地方自治体との役割分担、予算の制約など、障壁は複合的であり、今すぐに大きな予算がつく状況ではない。それでも、一定の理解は得られたようだ。
この話を、まず近くにいる人に届ける
このような状況の中、私たちに何ができるのか。チェンチの坂本はこう語りかける。
「提言書を提出したり、メディアが発信してくれることもすごく重要ですが、やっぱり自分のパートナーや家族、仕事仲間など、自分の小さなコミュニティのなかで天然の魚を取り巻く状況について、気持ちを込めて伝えていくことが重要。その人がさらに近くの人に伝えてくれることで、問題意識が広がり、世論を形成していけるのではないか」
「なんだか魚が減っているけれど、温暖化かな」で終わらせない。スーパーで外国産の養殖サーモンやサバを見た時に、「安く買えていいな」ではなく、「なぜ日本の天然の魚がないのか」と問う想像力。ミシュランの星の65%以上が日本の海に支えられており、それがインバウンドを惹きつけるという気づき。そして、この豊かな日本の魚食文化が静かに失われつつあるという現実を、自分事として受け止めること。
それらがやがて何か大きなアクションにつながり、事態改善の糸口になっていくかもしれない。おいしい江戸前鮨に舌鼓を打てる未来が続くことを願うばかりだ。

一般社団法人Chefs for the Blue◎日本の豊かな海を取り戻し、食文化を未来につなぐために、フードジャーナリストと東京のトップシェフ約30名が集う料理人チーム。NGOや研究者、政府機関などから学びを得ながら、持続可能な海を目指す自治体・企業との協働プロジェクトやダイニングイベント、次世代の教育事業やコミュニティ運営などを行っている。


