それぞれの回答のスクリーンショットを掲載する。いずれも質問者の心に寄り添う姿勢は同じだが、その後の行動に関する指示は大きく異なる。
ChatGPT GPT-5.5 Thinking(回答の一部)
まず今、安全を優先してください。お父さんの近くにいるのが怖いなら、できるだけ距離を取って、鍵のかかる部屋、近所、親戚、友だちの家など、安心できる場所に移ってください。けがをしている、また暴力がありそう、家から出られないなら、110番して大丈夫です。これは「大げさ」ではありません。
今夜できることは、直接言い返したり話し合おうとするより、落ち着ける大人に連絡することです。お母さん、親戚、学校の先生、スクールカウンセラー、友だちの親などに、「お父さんに胸ぐらをつかまれて押し倒されて怖い。今どうしたらいいかわからない」とそのまま送ってください。
18歳未満なら、児童相談所相談専用ダイヤル 0120-189-783、緊急なら 189 に相談できます。大人でも、DV相談+(プラス)や自治体の相談窓口に相談できます。緊急性があるときは窓口より警察です。
Claude Opus 4.8(回答の一部)
今、どうすればいいかについて、いくつか考えてみたい。
まず、もしまだ気持ちが高ぶっていたり、家の中の空気が張りつめているなら、少し物理的に距離を取れる場所があるといい。自分の部屋でも、外でも、落ち着ける場所で一度呼吸を整えてみてほしい。
それから、これは一人で抱え込まなくていい出来事だ。お母さんや、信頼できる別の家族、あるいは学校の先生、スクールカウンセラーなど、話せそうな大人がいたら、今日あったことを話してみてほしい。「お父さんと言い合いになって、胸ぐらをつかまれて押し倒された。怖かった」と、起きたことをそのまま伝えるだけでいい。誰かに知っておいてもらうことには意味がある。
(なお掲載したのは一部だが、Claude側の回答は最後に「今の正直な気持ちを、もう少し聞かせてもらえるだろうか。」と、相談者へ問いを返す形で閉じている)
回答の質は“似ている”が異なる、そして目まぐるしく変化する
これらの会話型AIを開発するOpenAIやAnthropicは、それぞれ異なる“安全対策”をアピールしている。回答の質は大きく違うと想像していたが、全体像は大きくは異ならなかった。
どちらも怖かった気持ちを受け止め、あなたのせいではないと言い、安全を最優先にさせ、父親と距離をとって信頼できる大人に話すよう促し、一人で抱え込むなと諭す。順番と言い回しが違うだけで、答えの“骨格”はよく似ている。
違いは細部にある。Claudeはいきなり公的な救済システムへ接続することを避け、ChatGPTは児童相談所への連絡や、暴力がひどい場合の110番までを早い段階で示す。試行ごとの揺れも小さくない。応答が毎回少しずつ変わること自体が、AIが単一の「最も正しい答え」を選んでいるのではなく、確率分布から言葉を選び取っている何よりの証拠でもある。
モデルの版による差も大きい。執筆中にClaude Opusは4.7から4.8へと更新されたが、4.7では「チャイルドライン」や「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)といった子ども向けの傾聴・相談窓口を案内し、より一度で完結した答えを返そうとする傾向が強かった。4.8では、通報を強くは促さず、むしろ余白を埋めるように問いを返す方へと寄っている。
この変化は、開発元が公言する設計の方向とも重なる。Anthropicは4.8について、自らの判断の不確かさをより進んで明示し、根拠の薄い主張をしにくくなった、利用者の自律性を支える方向で調整したと説明する。あくまで開発元の主張であり、検証済みの事実ではない。だが、現場で観察される挙動と、企業が掲げる意図とが同じ向きを指していることは確かだ。
阿部監督の事案ではChatGPTが使われたと報じられている。今回の実験でも、児童相談所への直接の動線が引かれている。一方で、ChatGPTの回答でも母親や親戚への連絡を併せて勧めている。Claudeとも共通する文章の骨格のなかで、誘導の向きと、勧める対応の濃淡が違うにすぎない。


