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2026.06.18 11:00

「ゆらぎの均衡」を求めて リッツウェル ミラノサローネの軌跡

世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」。今年16回目の出展を果たした高級家具ブランド・リッツウェルがミラノでブランディングをし続けるその理由とは。現地ミラノ、多くの人が訪れるリッツウェルの展示ブースでその戦略について聞いた。


ガラスで仕切られたブースの外に、世界各国からミラノを訪れた人々が行き交う。

「人間っていうのは、不完全なものですよね」

リッツウェルの宮本晋作社長が、不意に視線を移しながらそんな言葉を発したのは、インタビューも終わりに近づき、話題が昨今の世界情勢になったときだった。

「不完全だから争いが起きてしまう。でも逆に、人間が完全すぎるというのは何かバランスを欠いてしまうように思います。得意な部分と苦手な部分と、お互いが補い合って、協力し合ってまとまる。不完全であるからこそ人間は争うのではなく、補い合うべきなのにって思うんですよ」

一息にこう語ったあと、宮本は少し恥ずかしそうに「家具屋がね、言うことじゃないんですけど」とはにかんだ。

家具ビジネスの場所にこだわる理由

毎年4月、イタリア・ミラノで開催される国際家具見本市「ミラノサローネ」。1961年に始まった家具デザインの祭典は今年2026年で第64回を迎えた。167カ国、31万6342人と、本年は前年比プラス4.5%の来場者数を記録した。

出展社・出展デザイナー数は32カ国からあわせて1,900ブランド。6日間の会期中に企業、バイヤーはもちろん投資家からメディア、そして一般客まで多種多様な人々が家具を中心とする産業のエコシステムを目の当たりにする。

このミラノ・デザインウィーク中にはミラノ市内中心部のあちこちでブースが展開される。家具に限らない業種のブランドがデザインコンセプトを発表するのだ。これをフォーリ(市内)会場と称し観光客でも賑わうが、あくまで主体は「ミラノサローネ」という言葉が意味するフィエラ(郊外)会場。総面積が「東京ドーム9個分」とされる広大な敷地に16個のホールが集まる場所で、“商談”が主目的のれっきとした家具見本市会場だ。

福岡で1992年に創業された高級家具ブランド・リッツウェルは、世界の家具業界が注目するこの国際舞台の常連と言ってもいい。今年16回目の“登壇”を果たしたリッツウェルが展示ブースを構えたのはホール9。B&BやAudo Copenhagenといった内外のハイブランド家具メーカーが集結する場所だった。なぜ、フィエラ会場での展示にこだわりをもつのだろうか。

「たしかに市内のフォーリ会場にはアパレルや家具のスーパーブランドがショールームを出し始めていて、盛り上がりを見せている面もあるでしょう。でも、私たちはあくまで家具ビジネスの場で自分たちの家具を見せていきたい。商談につなげるためのブランディングをミラノですることが目的であることは、初回から変わりません」(宮本)

ミラノサローネ初回出展とは今から18年前の2008年のこと。リーマンショックで売上減に悩むなか、経済産業省が主導する国内の優秀なデザインブランド海外展開に参加することができたのだ。結果としてリッツウェルはそのブランドを世界に評価されるきっかけをつかむことになるのだが、「国の補助から独立してからの5年くらいは、ブースを出展してもお客さんが来なくて……」と宮本が苦笑するように、順風満帆なわけではなかった。

ブース来場者を「2倍」にしたアイデア

「スタート地点にすら立てていない感覚があってですね……」と、当時を振り返るのは、リッツウェルでアートディレクターを務める山田豊尚だ。山田はミラノサローネでのブース展示を担当して10年。リッツウェルのミラノサローネ挑戦の軌跡を目の当たりにした人物でもある。

「私が初めてサローネを訪れた2016年は、主要会場であるホール5にアジアブランドとして単独初出展した誇るべき年だったんです。名だたるブランドのなかに自分たちの名前が並んでいて、それだけでもう、ゴールしてしまっているような感覚があったんです。

ところが冷静にブースへの来場者数を分析していくと、もっと認知度を上げなければビジネスにつながらないという厳しさが見えてくる。スタート地点にすら立てていない、と思ったのはそういう意味です。そこから、どう自分たちのブランドの見せ方を構築していくか、どう海外の人たちにリッツウェルの世界を体験してもらうかを議論し始めました」

山田
リッツウェル アートディレクター山田豊尚

 議論では日本的なものを全面に出していこう、という意見もあったという。宮本も初期には「世界進出」の気張りがあり、周囲からも「日本を出さないと通用しないよ」とアドバイスされることも多く、和の文化に縛られることに悩んだ時期もあったと打ち明ける。

「でも家具はそもそも欧米の文化。それを素直に受け入れて敬意を払うことで、意識せずに日本というものをナチュラルに出せるようになったんです」

肩の力が抜けた宮本がある日発した一言を、山田はよく覚えている。

「『そもそも、家具を見て欲しいんだよね』っていう話をされましてね。ブースの空間をどうスタイリングするかに思考が傾いていたところに、自分たちのやるべき原点に帰らせてくれるような発想でした」

会場を歩く人の目線に合わせて家具の展示する高さを変える、美術館の作品のように家具にスポットライトを当てる、陰翳礼讃に通じる、日本的な光と影の美意識を通して家具を見せるにはどうしたらいいか――自分たちが自信をもつ家具が、世界の舞台で一番輝く方法を試行錯誤する日々が始まった。

そして2018年には「TOKONOMA」と呼ぶショーケース型の展示を生み出し、リッツウェルのブースへの来場者が例年の2倍になるというブレイクスルーを果たした。 

2026年の会場でも「TOKONOMA」での展示がなされ、人々の注目を集めた。ブース設計を担当したのはイタリアの建築事務所の967arch。デザイナーのマウロ・ピッツィはリッツウェルのクオリティの高さに「一目惚れ」したといい、その美を支える強さとは「今見ても、20年後見ても美しいタイムレスであること、そのプロダクトの誠実さ」と答えた。
2026年の会場でも「TOKONOMA」での展示がなされ、人々の注目を集めた。ブース設計を担当したのはイタリアの建築事務所の967arch。デザイナーのマウロ・ピッツィはリッツウェルのクオリティの高さに「一目惚れ」したといい、その美を支える強さとは「今見ても、20年後見ても美しいタイムレスであること、そのプロダクトの誠実さ」と答えた。 
社長
リッツウェル社長 宮本晋作 

職人の手仕事がお客様に訴える

認知度上昇から“商談”への良い影響が生まれ始めた。

「アントニオ・チッテリオ。家具業界では誰もが知るB&Bの巨匠デザイナーの彼が手がける建築設計事務所から依頼が来たんですよ。今度東京にあるホテルができる。ここの家具をリッツウェルにお願いしたい、と。あとでそこが有名なブルガリホテルだと知って驚きました。納品が終わるまでこれは嘘なんじゃないだろうかと思ったくらいです」(宮本)

ブルガリホテル東京でリッツウェルの家具が採用されたのが2023年。初出展から数えて実に15年目のことだった。

「ミラノで出展し続ける。それで自分たちのレベルがアップする。国内外の人たちから知られるようになって、やがてエンドユーザーにまでリッツウェルのことが知れわたる。この長い戦略がブランディングだと思っています」

さらにはビジネス上ではっきりとした数字にもブランディングの効果が現れているという。

「購入単価が上がってます。物件単価と呼んでいますが、一顧客がリピーターになるケースがとても増えています。つまり、リッツウェルの価値観に共感し、空間全体で取り入れてくださる方が増えている。これは長期間のブランディングの賜物だと思いますが、ミラノサローネ出展だけではなくて、私たちの職人の手仕事がお客様に訴えるところが大きいと自信をもっています」

ミラノサローネのブース内ではリッツウェルの家具職人がチェアのフレームに厚革を編み込むデモンストレーションが行われていた。スマホを手に職人技を記録する人、細かな手技に息を呑みながら見入る人。家具というものが、人間の手を通してつくられるという当たり前にして贅沢なことが、この空間では実感できる。この職人展示が生まれたきっかけを山田が振り返る。

「コロナが大きかったです。人と人が会えない時代をしばらく過ごした私たちにとって、やはり人が何かに真面目に取り組む姿、それを間近で目にすることって大きいと思ったんです。

もちろん商談の場ですから、家具そのものの展示スペースをその分小さくしてしまう。その判断にはかなりの勇気が必要でしたが、宮本がものづくりをする上で大切にしているもの、その温かみを生み出している職人の手仕事こそ、ミラノで世界中の人たちに見ていただきたいと考えたんです」 

967archは今回のブースデザインについて「お客様が一歩足を踏み入れた瞬間、温かく迎えられたと感じてくれるような“家”をコンセプトにした。大きな3つのリビングエリアで、ブランドの温もりを体験してもらえるように家具をディプレイした。リッツウェルと5年にわかってコラボレーションしているが、日本の技術と文化を唯一無二の美しさに仕上げるプロセスが何より楽しい」と語った。
967archは今回のブースデザインについて「お客様が一歩足を踏み入れた瞬間、温かく迎えられたと感じてくれるような“家”をコンセプトにした。大きな3つのリビングエリアで、ブランドの温もりを体験してもらえるように家具をディスプレイした。リッツウェルと4年にわたってコラボレーションしているが、日本の技術と文化を唯一無二の美しさに仕上げるプロセスが何より楽しい」と語った。
「工業製品でありながらも、非常に職人技の温かみ、クラフト感がしっかりと残っている」(967arch)。職人のデモンストレーションスペースでは多くの人々が立ち止まっていた。
「工業製品でありながらも、非常に職人技の温かみ、クラフト感がしっかりと残っている」(967arch)。職人のデモンストレーションスペースでは多くの人々が立ち止まっていた。

「愛着を記憶する家具」へ

リッツウェルが今年ミラノで発表したNEW COLLECTIONは異素材によって生まれる「ゆらぎの均衡」だった。

木とスチール、石と金属、革という異なる素材の組み合わせによるプロダクトで、リッツウェルとしては初めて「石」を素材にした。自らデザインを担当した宮本は当初、石に対して「冷たい」という印象が強かった。

ところが、本磨き、水磨きと石と付き合いながらその表情が変わることを知ったという。そして、構造的に利点がある、意外と温かみがある、と長所にも気づき始めた。「GT TABLE」は石の天板にツインレッグのスチール脚、一部に厚革を使うという異色の組み合わせだが、「不安定そうに見えて、構造的にはとても理にかなっている」という。

GT TABLE。石の天板に二重構造のスチール脚、一部に厚革を使っている
GT TABLE。石の天板にツインレッグのスチール脚、一部に厚革を使っている

そして「ゆらぎの均衡」とは、リッツウェルが追求し続けている理想なのだと、宮本は続けた。

「あくまで欧米由来の家具だけれど日本らしさを感じる。モダンのキリッとしたなかに温かさを感じる。モダンだけどクラシックの要素が入っている。量産的な雰囲気をもっているけど手づくり感がある。男性的なんだけど女性的でもある。そんな相反する要素が、いろんなところで融合しているのが、私たちがつくる家具の理想だと思っているんです」

リッツウェルのプロダクトコンセプトは「愛着を記憶する家具」。ゆらぎの均衡はまさしくここにつながっていく。相反するものが組み合わさり、補い合って美しさに到達する。

「AIのように完璧なものは逆に面白くない。いくら上手な絵を描いても美しいものをつくっても、面白くはないんです。やっぱり、この世につくり出されるものには時間、人間の思いや手間、そういったものが入っていなければと思うんです。

愛着というのは、そうしたものに宿っていくと思います。大事に使いたい、長く使いたいという心は、不完全な人間がつくったものだからこそ生まれるのではないかと」(宮本)

自らもミラノ北部・ブリアンツァの家具工房で修行した宮本。愛着の創造をミラノから発信するリッツウェルのブランディングは、これからも続く。

リッツウェル特設ページ
Timeless& Borderless

promoted by Ritzwell / text by Tomoya Tanimura/ photograph by Ken Anzai