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2026.06.09 16:00

次の100年を担うきみたちへ——「公益資本主義」が次世代に問う経営の本質

考古学者の夢からシリコンバレー、そして「公益資本主義」の提唱へーー。

原丈人が、不透明な時代を生きる次代のリーダーたちに送る知恵と指針。


ピラミッドへの問いが、人生を動かした

私がこれまで歩んできた道は、一見するとバラバラに見えるかもしれません。スタンフォード大学在学中のベンチャー起業、途上国における貧困解決への挑戦、飢餓・栄養課題の改善、そして公益資本主義の提唱。しかし、そのすべての原点は、20代の頃に夢中になった「考古学」と「両親からの教え」にあります。

20歳のとき、中米のエルサルバドルやグアテマラで見たピラミッドに心を奪われました。 「誰が、なぜ、どうやってつくったのか」 その問いが、私の人生を大きく動かしました。 21歳からの7年間、中央アメリカの考古学研究を行いました。 しかし、本格的な研究には資金が必要です。 そこで私が参考にしたのが、ビジネスで財を築き、トロイア遺跡を掘り当てた ハインリヒ・シュリーマンでした。

「自分の力で資金をつくり、夢を実現する」 そう決めた私は、27歳でスタンフォード大学へ飛び込みました。 当時のシリコンバレーは、まさに世界が変わり始める瞬間。 技術の知識がゼロだった私は光電子工学を学び直し、 学生寮で最初の会社を起業しました。 その経験が、後のベンチャーキャピタル設立につながります。

しかし、アメリカのビジネスの中心に身を置く中で、 私はある“違和感”を強く抱くようになりました。

「世界に豊かな中間層をつくりたい」、公益資本主義の誕生

1997年、アメリカの経営者団体が「株主第一主義」を宣言したとき、 私は直感しました。 「このままでは社会が壊れる」 と。

株主の利益だけを追い、 短期的な利益の最大化のために人件費や研究開発を削り、 株価を上げることが“優秀な経営”とされる。 その結果、アメリカは中間層を失い、 格差が急速に拡大していきました。

私は思い出しました。 若い頃に見たエルサルバドルの現実を。 14家族が国の99%の富を握り、 中間層が存在しない社会の脆さを。 そして、同じ時代の日本には 「ほぼ全員が中産階級」という奇跡の安定があったことを。

「世界に豊かな中間層をつくりたい」 それが、私がビジネスを始めた究極の理由でした。

株主資本主義が世界を覆い始めたとき、 私は新しいルールが必要だと感じました。 企業は誰のために存在するのか。 利益は何のために使うべきなのか。 その答えとして生まれたのが、 「公益資本主義」 です。

会社は社会の公器であり、 利益は株主だけでなく、 従業員、顧客、取引先、地域社会、 そして地球環境にまで還元されるべきもの。 この考え方を支えるのが「社中」という概念です。

社中とは、 会社を支え、共に未来をつくる仲間たち。 利害で対立する“ステークホルダー”ではなく、 信頼と助け合いを前提とした関係です。 日本の老舗企業が100年以上続く理由は、 この「社中」の文化にあります。

経営とは、 突き詰めれば 人と社会の未来をつくる仕事 です。 利益は、次の世代の技術、人材、社会へと再投資されるべきもの。 短期的な株主還元のために使うものではありません。

トップの言葉に、企業の本質が宿る

みなさんに、ひとつだけ伝えたいことがあります。就職・転職で会社を選ぶときは、必ずトップの言葉に触れてください。 その企業が何を大切にし、どんな未来をつくろうとしているのかは、 トップの言葉にすべて表れます。

そして、人生に迷ったときは、 考えすぎず、まず一歩踏み出してみてください。 私は若い頃、塾の教師からペンキ塗り、コーヒーショップなど多数の仕事を経験しました。 どんな仕事でも手を抜かず、 完璧にやり遂げることに集中した経験は、 後になって必ず自分を支えてくれます。

日本の若者は、世界でも類を見ないほど恵まれた環境にいます。 だからこそ、自ら厳しい環境に飛び込み、 胆力を磨いてほしい。 自分で考え、決断し、 違うと思えば方向転換する勇気を持ってほしい。

そうした若者たちが「社中」として互いを信頼し合い、 未来の企業をつくっていくとき、 豊かな社会は必ず実現します。


原 丈人(はら・じょうじ)◎アライアンス・フォーラム財団(国連経済社会理事会の特別協議資格を有する合衆国非政府機関)会長、デフタ・パートナーズ グループ会長、香港大学医学部榮譽教授。中米での考古学研究を経て、スタンフォード大学大学院在学中にシリコンバレーで起業。1984年にデフタ・パートナーズを創業し、全米トップクラスのベンチャーキャピタリストとして活躍。各国の政府委員や財務省参与、内閣府参与などを歴任し、公益資本主義の普及に尽力する。著書に『新しい資本主義』『「公益」資本主義』など多数。

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