AI活用の実践が社員の主体性を育てる
AIが指数関数的な成長を遂げる今、企業に問われているのは「どのツールを使って生産性を高めるか」ではない。「AIにはできない仕事とは何か」「会社は何のために存在するのか」という、企業経営の本質にかかわる問いである。
こうした問いに向き合うとき、企業は既存の組織や事業を変革せざるをえない。本特集が追うのは、その変革に踏み出した日本の大企業の姿だ。「AI役員との共生」「真のフィジカルAI」「AIコレクティブセキュリティ」「AI倫理とイノベーション」「AIと人間性の回復」──5つのキーワードを軸に、変革に挑む企業の現在地に迫った。
組織変革は経営トップだけが担うものではない。AIが定型業務を代替するようになれば、役員層からエントリーレベルの現場社員に至るまで、誰もが仕事の本質を問い、主体的に判断し、自らの行動に責任をもつことが求められる。
だからこそ、変革を志す企業は現場の社員を仲間に引き入れながら歩みを進めている。その姿勢が最も鮮明に表れているのが、社員が自らAIを活用して業務課題を解決するプログラムや仕組みの設計だ。
オムロンは23年8月から、生成AIを現場の課題解決に適用する手挙げ式の社内プロジェクト「AIZAQ」を推進している。
業務上の課題を解決したいという熱意を抱く社員と、生成AIの専門知識や知見をもつ社員がタッグを組み、社員がもち寄った困り事を解決する。26年3月末時点で、のべ1200人以上が100を超えるテーマに取り組んだという。
キリンホールディングスは25年より、国内従業員約1万5000人を対象に生成AIチャットツール「BuddyAI」を展開している。注目すべきは、各部門がもつ社内データやナレッジなどとBuddyAIとを組み合わせることで、より専門的かつ精度の高いアウトプットを生成できる点だ。単にツールを渡して効率化を促すのでなく、自分たちの専門性をAIに宿らせる機会を提供している。
日本電気(NEC)では、役職や立場を問わず、誰もがナレッジをインプットして「専門家AI」を作成できる環境を整えている。社内で生まれた専門家AIの数はすでに1700ほどあるという。みんなが分身のようにAIを使いこなす。目指すのは「AIの民主化」だ。
これらの取り組みに共通するのは、社員が自分の業務をふかんしながら言語化・構造化し、「AIができること」と「人間がすべきこと」を見極めるプロセスを経ることだ。業務を再設計する経験を通じて、AI時代にあるべきリーダーシップを育む。


