漫画に登場する「毛生え薬」は、塗れば頭はもちろん、体のいたるところに毛が生えてしまう。そんな薬が欲しいものだと心底願っている人も少なくないだろう。それが実際に開発された、というにはまだ気が早いが、「塗れば生える」という現象が実験によって確認された。
九州歯科大学の研究グループは、背中の毛を剃ったマウスの皮膚にある薬品を塗ると、その塗った場所にだけ毛が生えることを発見した。その薬品とは、「コロスキン」などの液体絆創膏にも使われるピロキシリンという接着性材料。それが、休止期の毛包(毛を生やす皮膚の器官)を成長期へと移行させるというのだ。ちなみに、毛包は、毛が生える成長期、毛の成長が鈍る退行期、毛の成長が止まる休止期を繰り返す(毛周期)。休止期が長く、なかなか成長期へ移行できなくなると、毛が薄くなっていってしまうのだ。
実験では、毛包が休止期のマウスを使用した。休止期なので、毛周期が成長期に切り替わる3〜4週間後まで剃った部分の毛は生えてこない。そこにピロキシリンを4カ所塗布すると、14日後に毛が生え始め、19日後には剃っていない周囲の毛と同じ密度の毛が戻った。

ピロキシリンを塗った部分の皮膚は、2日後には皮膚の浅い部分に創傷変化が起きる(傷つく)。そこに炎症細胞が集積し、やがて毛包の伸長や脂腺をともなう毛包構造の形成が確認された。また同時に、毛周期や毛包形成に関わる遺伝子の発現上昇も認められた。その刺激で、毛包は休止期から成長期に移行したものと思われる。
この現象は、1匹のマウスあたり、背中以外の部位も含めた20カ所以上の皮膚部位で認められた。また、高齢のマウスでも同じように毛が生えた。
今後は、こうした発毛誘導が起きる細胞応答や分子メカニズムを解明し、皮膚表層の刺激がどのように毛包幹細胞に伝わり発毛スイッチが入るのかを解析するとのことだ。それがわかれば、本当の「毛生え薬」が誕生するかもしれない。



